”私たちはトシじゃない"『美しい絵の崩壊』
アンチ・エイジング映画?
幼い頃から親しかったロズとリルも、それぞれ一人息子の母親となっていた。夫を失くしたリルの息子イアンはロズをセカンド・マザーとして慕い、ロズの息子トムもイアンと堅い友情で結ばれている。だが、ロズの夫ハロルドがシドニーへの転勤と引っ越しを提案した時、二組の母子から思いもかけない感情が噴き出す……。
また意味わからない邦題がついているな……と思ったが、おそらくこれは、予告編でも強調されていた二組の母親と息子が並んでいるカットを指しているのだろうな、と思っていたところ。映画の序盤、息子二人がまだ子供の頃にも四人で並んでいるカットがあり、それを一方の父親が少しばかり疎外感を抱きつつ見つめる……というシーンがある。まるで一幅の絵画のようなそのカットを「美しい絵」と呼んでいるわけだ。
で、物語は当然、その「美しい絵」が崩壊するまでを描く……のだろうと思いきや……いや、幾度か崩壊の危機が訪れるのだが、それは決して崩壊せずに再生し、それどころかより強固になっていきさえするのである。やっぱりダメだな、この邦題は!
「私たちってレズ?」「いやいや、違うよね」と二人が言い合うところで、何となく『リーサル・ウェポン4』でメルギブとダニー・グローバーが「俺たちはトシじゃない!」「トシじゃない!」と互いに連呼し合うシーンを無性に思い出してしまった。果たして、二人はもちろん恋愛関係ではないし肉体関係を結ぶこともないのだが、互いの「作品」と呼んだそれぞれの息子と関係を持つあたり、まさに形を変えてお互いに関係を持っているようでもある。単に事実だけを取り出せばレズビアン関係ではないし、二人ともヘテロセクシュアルなのも間違いないところなのだろう。だが、その中でもあまりに関係が近いゆえに白黒に分けられない間柄があり、おそらくそれらは二人の息子それぞれに継承され、交差して結びつく……。
始まってからは他のことをほいほいと犠牲にし、ひたすら関係の維持が続く。ロビン・ライトさんに捨てられた旦那(彼はついに事実を知ることはなかったのであろうか……)が、また新たな家庭を築いて「なるようになるのさ」とか言っちゃってるところが象徴的で、テロップであっさり「二年後」「五年後」がつけられ、まさになるようになっていく。
二人の息子の片方が結婚を決めた時、やっと終わるのかと思われたのだが……。
原作小説の原題が『Grand mothers』だったので、こりゃあてっきり、二人の母親がそれぞれの子供を身ごもって、母であり祖母であるという複雑怪奇な状況になるに違いない!と予想したのだが、ちょっと違ったわ。
ここでロビン・ライトによって言われる「祖母」になろう!というのは、社会的に認知された教条的祖母像を指していて、いい加減、こういう歪な関係はやめて、社会に認知された存在になっていこう! もう潮時! ということなのだな。しかし、率先して始めた側であるロビン・ライトの方がやはり率先して関係を止めようとするのに対し、つられたような対抗意識を燃やしたような形で後に続いていたナオミ・ワッツ側の方がダラダラと続いてやめられない、というのが、対照的。
アンチ・エイジングに限界を感じつつ、さりとてやめるとそれを余計に実感せざるを得なくなる、という心理を演じるナオミ・ワッツさんの演技がまた強烈でありましたな。
母と息子、四者四様の心理と、それぞれの結婚相手一人一人の性格の違いの描きわけなどが面白く、また背徳的テーマも手伝って、見ている間は野次馬的に楽しんで見られた。内面はドロドロしながらもあくまで陽光の下で、その在り方を望んでいるのかどうかもはや自分でもわからないのに、「美しい絵」として存在し続けるしかない四人の姿に「どうしてこうなった……」という思いを抱くラストも良い。
馬鹿馬鹿しい昼メロのようなお話を、変化球で投げ切ったような珍作で、気持ちいいファンタジーにもなっていない。商品である以前に物語であるような、不可思議な映画でありました。
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