”キラキラ光っているもの”『じゅういちぶんのいち』

　サッカー漫画を映画化！

　高校に入学し、新設でサッカー部を立ち上げようとする安藤ソラ。彼の真摯でひたむきな姿勢に惹かれた者たちが少しずつ集まり、サッカー部は形になっていく。中学でサッカーを辞めようとしていたソラを導いたものとは……。

　ジャンプSQで連載中の漫画を映画化。珍しく真面目に読んでる漫画なので、見に行ってきましたよ。
　監督と原作者の対談を読んだら、「撮影期間は十日」とか言ってるし、予算もかかってるわけがない感じであったので、ちょいと出来は不安視していたところ。
　原作漫画の第一巻の3エピソードすべて、第三巻から1エピソードを抜粋して、80分ほどだが長編に構成し直してある。原作は主人公安藤ソラと若宮四季のエピソードが最初にあり、安藤のサッカーに込めた想いを読者だけが先に知っている状態で物語が展開していくのだが、この映画ではあえて最後に持ってきてある。
　そのことによって、前半はサッカー一筋でまったくぶれない完璧なさわやか野郎に見える安藤に、他のキャラクターが感化されていく様子を見せ、後半はその安藤がなぜにここまでさわやかなのか、を解き明かすという一種の謎解きもののような構成になっている。前半の3エピソードの時系列を同じくしての描き方が思いの外スムーズで、漫画本編にはなかった異なるエピソードのキャラ同士の絡みも入れたところが上手い。オープニング、サッカーの練習中のグラウンドにカメラが入って行って、最初に映るのが同じくサッカーを練習中の主人公らを撮影しているカメラ女であるとこでは、「おっ！」と声が出てしまったよ。また、漫画なら各話でクライマックスになった展開を序盤で三連打することでダレるのを防ぐ意味合いも。舞台劇のエピソードをその手前の練習シーンで切ってしまい、予算と時間のなさをごまかしたあたりも違和感なし（笑）。
　後半は安藤にスポットが当たり、前半のさわやかと対照的に、他のメインキャラと同じくやさぐれている姿が描かれ、その彼を助けたのは誰だったのかというところで、満を持して前半から存在の影だけがちらついていた、真のヒロインが姿を現す……！

　こっちは原作を読んでいるが、多分、まったく読んでない人でもこの構成は楽しめるのではないか。いや、実は自分も最初に読んだのは2巻のゴールキーパーのエピソードで、その後で1巻に遡って読んだから、同じような見方をしたと言えるかもしれない。

　台詞をちょいちょいカットして、役者の表情で見せるだけにとどめているバランスも悪くない。長ゼリフのシーンもあるが、まあそこも溜めてから出しているので許容範囲か。
　ただ、台詞をカットして映画的に見せるためにブラッシュアップしていく過程で、いくつか弱い部分も生まれてしまったようにも見える。
　一つ目はマネージャーのエピソードで、部活に強硬に反対していた父が、自分が昔駅伝に打ち込んでいた時代のたすきを妻に見せられて「ちょ、おま」となってしまうところが、台詞のみで表現していた漫画よりインパクトがあった反面、その妻が娘と同じくマネージャーだったことを示す台詞がなくなっているのはミスではないか。共に部活に打ち込み、駅伝のマネージャーをやったからこそ今がある、というのを示すシーンなのに、なんで母が駅伝時代の事を知っているのかが不明瞭で、単に後から話を聞いただけに解釈できるようにもなってしまっている。
　もう一つは、結局金も時間もなく試合シーンをついに入れられなかったせいだろうが、強引なドリブル突破が持ち味だった安藤が仲間を活かすスタイルに変わったというテクニカルな側面が描かれていないのは、この作品の重大なピースがはまっていないようで、非常にもったいない。四季との再会でそれに開眼し、前半のチームメイトのプレーを褒めるところもそこにかかってくるのに、単に彼女との対決が気持ち良くてなんとなくサッカーに戻ったかのように見えてしまっている。
　サッカーというスポーツのロジカルな魅力を、情緒的な泣かせに落とし込んでいるのが原作の優れたところなのに、ちょっと最後のところで後者に流されたかな……残念。最終的に描くものが同じでも、過程をすっ飛ばしてしまうと魅力に乏しくなってしまう。
　あとは、せっかく漫画から後だしじゃんけんで作れるんだから、ちょろっとでもいいから愛の戦士や茶道部も出しておけば面白かったかもしれんね。

　ただまあ、思っていたよりもずっといい映画であったし、拙いながらも役者陣にもフレッシュな良さがありましたよ。で、ヒロインの座を奪われたかに見えたジャーマネが、エンディングで主題歌を熱唱して「おまえには負けん！」とアピールするところもナイスですね。歌のタイトルが「Dear My Hero」なところも内容に合ってていいじゃないか。

　さあ、次は試合シーンをバンバン入れた続編を撮って欲しいね！主人公はこれからJリーグ、Wカップ、アメリカと転戦していくわけだし……って、無理か！