”ドヤ顔妄想すいません"『LIFE!』


 ベン・ステイラー監督、主演!


 雑誌「LIFE」の廃刊が決まり、ネガや写真を管理する部門で働くウォルター・ミティもリストラの危機に。最終号の表紙は、ウォルターも懇意である写真家ショーン・オコンネルの指定する写真になるはずだったが、なぜか送られて来たはずのネガが見つからない。密かに想いを寄せていた経理部のシェリルに背中を押され、ウォルターはショーンの次の撮影先であるグリーンランドへ飛び立つのだが……。


 いまいち相性が良くないのか、この人の出てる映画は『メリーに首ったけ』、『ナイトミュージアム』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20090611/1244733613)シリーズ、『トロピック・サンダー』と、どれも面白いと思ったためしがないのだよな。『ドッジボール』はまあまあだったか……。


 出来もしないことを妄想してばかりの主人公が、一念発起して遥か彼方の北国へと旅立つ。旅で色々な経験を積んで成長していく話……というよりは、すでにあった自分の内面や価値を再確認していく側面が強い。
 ほんとはカッコいい俺、という妄想が少しずつではあるが実現していき、日常に支障をきたさないか心配なレベルだった没入ぶりも段々と影を潜めていく。波乱万丈さと地味さのバランスが絶妙で、起きる事態は鮫だの噴火だの強烈なのだが、そこを乗り切る主人公の挙動はひいひい言いながら助けられたりと徹底的に地味。だけど、スケボーを始めとして、それら旅を成し遂げた力は全て元から持っていたものなのだな。
 仕事を失う危機にさらされてはいるが、今までやっていたことはわかる人にはわかっているし、常に支えとなる家族もいる。自分自身が変わるわけではないし、足元が揺らぐわけではない。
 結果だけ見たらネガ探しとしての旅は全然見当違いだったわけで、何しにこんなとこまで行ったのだ、という感じではある。が、だからと言って無駄だったわけでもない。もしそうならば、失業しちゃったんだからこんな仕事してたのはまったく無駄だったということになるだろうか?
 ショーン・ペン演ずるカメラマンが、そういうところから徹底的にぶれない人で、どこへ行ってもカメラと自分の感性、価値観を信じられる男なのだ。そうした男を追い、ついに触れることで、主人公は目覚めを迎える。


 通過儀礼ものっぽくもあるのだけれど、今までの自分を壊すという程の変化は起きず、自己肯定の物語。自分最高!という映画を自分で監督・主演して撮ってしまっているということで、ある意味ナルシシズムの極致。ラストも自分の銅像を建てちゃう『ポストマン』みたいな映画に見えなくもないが、そこは歳を経るごとに見かけの地味さと貧相さを増していくベン・ステイラーが、地道かつ堅実さを売りにするからこそぎりぎり許されるところか。それでも『ヤング=アダルト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120306/1331007057)のパットン・オズワルトを出して「思ってたよりカッコいい」とか言わせちゃうあたり、おまえほどほどにしとけよ、と言いたくなるのであるが……。


 悪役の男のうざい無学ぶりは『ドッジボール』でベン・ステイラーが自らやっていた悪役そのものだったね。そこに「ダンブルドアのヒゲ」とか空疎な悪口ではなく、最後にびしっと物申すあたりは、スターである自分へ驕りを戒めているようにも見える。逆に、ラストで最終号を慌てて買わないあたりは格好つけた話への照れであろうか。まああの家族なら、家に帰ったらシャーリー・マクレーンおかんがすでに十冊ぐらい買っていそうだね!

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