"今宵も街の片隅で、誰かが変わる"『へんげ』


へんげ [Blu-ray]

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 大阪初日に行ってきました〜。先の『大拳銃』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120523/1337697210)に続いて鑑賞。終了後には監督と出演者のトークショーもあり。


 奇妙な発作に悩まされ、家を出ない生活を続ける良明。妻の恵子が不安に思いつつ見守る中、ついに彼は奇怪な言語を話し、人間とは思えないような行動を取ることになる。そして訪れる肉体の変化……。良明の後輩である医師の坂下の勧めで、強制的に入院させられた良明。だが、平穏となったのも束の間、奇怪な通り魔事件が……。


 いや〜、日程の都合でカナザワ映画祭にて見逃して幾星霜(8ヶ月ぐらいか)……やっと観られました。


 前評判でこちらは「夫婦愛」ものと聞いていたが、先の『大拳銃』とはその面においてまさに真逆の話。しかしながらベクトルは逆とは言え、どちらも人間の関係性に対する描写にねっちりとした考察が感じられ、夫婦のかたちならではの「近さ」が存分に感じられるものとなっていた。ところで、監督は結婚してるのかな? 質問してみれば良かった。かつて劇場版の『秘密結社鷹の爪』の上映&トークショーイベントにおいて、女子高生による「フロッグマンさんは彼女いてるんですか?」という質問が飛び出し、監督が苦笑いして「結婚してます……」と答えていたことがありましたが……。


 先日『テイク・シェルター』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120513/1336902229)を観たところだが、かの作品で描かれたような、病を抱えた夫とその妻、という体裁で物語は幕を開ける。奇病、謎の発作……。街で発作を起こした夫に寄り添う妻のカットは、ちょうど『テイク・シェルター』でも同じようなシーンがあった。
 だが、今作における事態はそれでは収まらない。変容は精神に留まらず、やがて肉体へと及んで行く。鑑賞後のトークショーで、監督に質問する機会があったので「へんげ後」の姿にはモチーフがあるのか、と聞いてみたところ、『遊星からの物体X』のようなイメージで、作中で語られる人間以外の生物の「総意」、集合体のような感じということ。クトゥルフ神話のような混沌としたものを想像していたけれど、実際に映画を観て似てると思ったのは、『ウルトラQ』や初期の『ウルトラマン』シリーズに出てきた、バルンガやグリーンモンスケロニアやザザーンのような、不定形じみた怪獣たちであった。


 一時間程度と短尺なので、夫の友人である医者の企みの部分なんかは深く描かれないのだが、長尺だったら妻への横恋慕とかそんな展開もあったのかな〜。そうなると夫への行為というのもまた違った色彩を帯びて来るわけで。しかし「へんげ」が進むと彼の出番もまたなくなり、映画はモンスターアクションの彩りを帯びて来る。まさかの『真・仮面ライダー』『ダークマン』的な展開はあるかな、と思ったが、同じ特撮でもまた違う方向へ爆走。


 病院の監禁から抜け出して来た夫が、鍵の交換された家に入れてくれ、と妻に懇願するシーンは、英語字幕に出た「let me in」という言葉と共に、確かに吸血鬼映画も連想させたな〜。人ならざるものに変化していく悲哀と、葛藤を押し込めて殺人を犯しても彼を守ろうとする妻。全てが崩壊を予感させつつ突っ走っていくにも関わらず、先の読めないストーリーテリングも堪能。多くの要素が詰まってるんだが、低予算でやれることも限られてるゆえに統一感が生まれ、とっちらかった印象もない。そう、ラストの展開も必然にさえ思える。
 『大拳銃』と共に全編に横溢した、日常の裏に潜むふとした歪み、我々の生きている街の裏でも密かに誰かが「へんげ」しているのではないか、そんなことをちらと想像させる日常感覚が、個人的には白眉。いや〜、面白かった。そして、カナザワで観てたら爆音だったのだよねえ、残念!



 終了後に、監督と森田亜紀さん、信國輝彦さんのサインをいただきました〜。映画では地味な人妻役でしたが、やっぱり女優さんって綺麗だよな〜。

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テイク・シェルター [Blu-ray]

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