"ガルダが落ちなくて良かったらしい"『機動戦士ガンダムUC 5 黒いユニコーン』


 第5話! そして7話まで製作決定!


 襲来した黒いユニコーン「バンシィ」によって捕らえられたバナージ。ラプラスプログラムの開示した次の座標を頑として告げないバナージは、ユニコーンごと宇宙へと上げられることとなる。バナージ、そしてミネバを救出すべく、ガルダへと攻撃をかけるジンネマンたち。だが、逃れようとするバナージに、再調整され記憶を失ったマリーダがバンシィを駆って襲いかかる……。


 原作に限らず福井晴敏の小説というのは、作中で張った膨大な伏線を全て回収し切る豪腕と言ってもいい手腕と、長めのセンテンスで描かれる偏執的と呼んでも良さげな心理の変遷の描写が特徴であり長所であり、それがあのボリューム感、大作感を生む。
 ……のだけれども、それが例えば小説上においても描写を何割かカットしていくとどうなるか。当然、「え?」「あれ?」と思っちゃう、どこか唐突な話になっていくだろう。あらかじめ提示された世界観の密度が濃い故に、本来そこにあるのが相応しい重厚な物語が薄くなれば、当然歪さは増していく。
 福井晴敏本人も映画、映像作品が好きで造詣も深いのは小説以外の著書を読めばわかることだが、今作はもちろん『亡国のイージス』などでも自ら映像作りにも関わり率先して予算や尺に合わせた改変を行っている。おかげでダイジェストとしてはわかりやすく、最低限のニュアンスをキープして物語としての体裁を保っているものになっている……のだが、「整理上手」と「出来上がったもののクオリティ」は必ずしも比例しないよなあ。


 UCの原作でも延々と前振りで心理描写してるから、クライマックスに一つの場所に介した幾多の登場人物の思いが交錯し、それが一時に解放されていくカタルシスが生まれる。……のだが、尺に合わせて描写の比重が偏り、結果的に一言二言で語られるに留まってたエピソードで突然重要げに感情込められたシャウト入れられても、「え?」となっちゃうのだよなあ。


「オレを一人にしないでくれええええ〜!」


 え? この人、そんなに思い入れてたの? いや富野御大と違ってお父さんキャラ大好きな福井晴敏は、原作ではジンネマンのキャラをかなり重要な役どころに位置づけてたし、『4』のエピソードはそれを意識したものだったのはわかるのだけれど、ジンネマンとマリーダの関係が、フラストやギルボアとのそれと何か違うとは描き切れていないだろう。マリーダ側から観れば陰惨な過去描写と合わせてジンネマンと「マスター」という言葉に良くも悪くもつながっているインパクトがあったのだけれど……。


 今回はブライト艦長の「ニュータイプにお任せ!」も気になったなあ。原作では腹芸に走り過ぎな印象もあり、あれはあれでどうかと思ったが、今回はちょっと話しただけで信じて、「あとは頑張れ!」だからなあ。ほぼニュータイプになってるね……。まあそうは言っても御大の作ったキャラだし、ある意味でもう「故人」でもあるから、ストーリーの重要なところには絡ませられないし、作中での変化も描き難い。ゲストとしてはこんなものか。


 そんなこんなで、いちいち心打たない展開になっているのだが、原作であったクライマックスでのあの台詞もバッサリとカットされていた。あれも原作では浮いてたのだけれども、おそらく乗りに乗って描写を積み重ねた福井さんがラストに至ってほぼ感極まって、勢いで半ば筆が滑って入れてしまった代物じゃないかと想像している。で、おそらく今作では冷静になり、「ちょっと浮いてるよね」ということで切ったのだろう。が、裏を返せばそういう勢いが今作自体に欠けつつあることとも取れる。


 監督のインタビューを読んでてちょっと驚いてしまったのが、


http://randal.blog91.fc2.com/blog-entry-1885.html
>ガルダも墜ちずに済むし。戦時ではないので事が大きくならない方が良いです。


 すげえ! 連邦軍のお偉いさんの台詞にそのまま使えそうだよ! 別に後の年表と矛盾するわけじゃなし、いくら落ちてもいいじゃないか。ダカールまで攻撃されてたのに、今さらなにを言ってるんだ……。大人の事情でできなかったのはしようがないとして、こんな自己正当化する必要が、どこにあるんだ。この監督は演出もストイックでまとめ上手という印象だけど、思いもよらぬものを見せてくれる期待感はほぼなくなった。


 モビルスーツ祭りだった前回に比べ、武装解除されたユニコーンと大破壊の見せ場がなくなったバンシィという取り合わせも少々物足りなく、最後のローゼンズール登場に思わず拍手喝采。あ〜、でももっとマリーダさんとバンシィの活躍が観たかったぜ! もっともっとバナージを痛めつけてさあ。お姉様にいたぶられる少年、というシチュエーションだな。バンシィの新武装も撃ち落とす相手がいないから外ればかりで残念。


 総じて今回は残念感の大きい回だった。「つなぎ」では済まない重要な話のはずだったんだが、如何せん薄い……。とは言え、ラスト二本はほぼ上下構成だろうし、壮大なクライマックスに期待したい。

ROBOT魂 [SIDE MS] バンシィ

ROBOT魂 [SIDE MS] バンシィ