”坊やの負けだよ……もうキミには聴こえてないだろうけどね”『パーフェクト・センス』


 五感を失う奇病の流行る、終末映画!


 突如、五感を失う奇病の蔓延し出した世界……。レストランでシェフとして働くマイケルと、その奇病を研究するスーザンは偶然にも出会う。嗅覚から始まって、一つ、また一つと失われていく中、工夫をこらしてレストランを支えるマイケルは、スーザンと恋に落ちる。だが、奇病は世界中に広がり、全ての失われる時が迫る……!



 五感を奪う、と言えば、立海大附属テニス部部長「神の子」幸村精一のテニスだああああ! あれは真っ先に触覚か視覚が奪われるのだが、今作ではそちらは後回しであった。まずは嗅覚、そして味覚、聴覚と……。しかし、それらが失われる前に、猛烈に泣けたり、異常に食欲湧いたり、強烈に怒りっぽくなったりするのだよね。それら五感を失う、ということと、悲しんだり怒ったりする症状に全然関連性がないのがつまらない。味覚を失う前に物凄い食欲が湧く、というのはわかりやすく、そのシーンも迫力充分だったのだが、この理屈だったら、嗅覚を失う前には脇の下や靴下の臭いを猛烈に嗅ぎたくなったりするべきだし、聴覚なら爆音上映に行きたくなるとかするんじゃないの? 
 色々と病気のせいで惨事が起こるわけだが、五感消失によるものじゃなくて、その前に食いまくったり大暴れしたりすることが原因なので、五感を失うこと自体の恐怖が全部中途半端になってしまっている。
 で、その悲しいのをきっかけに恋が始まったり、怒ったのをきっかけに喧嘩して、触れ合いたくなってよりを戻して……全部、病気の症状じゃんかよ! 君たちには自由意志というものはないのか!? ないんだろうなあ、ユアンのキャラクターが、いかにもこういう気分に左右されそうな最低野郎だったりするところも面白い。
 そういえば、嗅覚の映画なら『パフューム』というのがあったなあ。これも人間の理性と、嗅覚という感覚の相剋を描いてるのですな。必見! 他にも怒りまくって社会生活が営めなくなる、ということで『クレイジーズ』なんて作品もあるし、一個一個の症状を掘り下げた作品がいくらでもあるので、それらと比較すると、どうしても弱く感じてしまう。


 しかしこのすっげえ情緒的な演出にはうんざりした。病気のせいでわけもわからず昔を思い出して泣いてるところに悲しげな音楽がかかったりして、いったい何を感じろと言うのだ!? びっくりするぐらいの雰囲気映画だな、おい! 人がただ泣いてるシーンなんて、共感するものじゃないよね。そのバックボーンが伝わるからこそ、自分を重ね合わせるわけで……。思わせぶりなナレーションで誘導するところがまたあざといが、こりゃむしろ笑うところと言うもので、この展開だったら、全編コメディにした方が良かったんじゃないかなあ。主演は当然サイモン・ペグがユアン役で、ニック・フロストエヴァ・グリーンの役。イギリス映画ですからね。眠れないから女を追い出すサイモン・ペグ! 突然泣き出したニック・フロストを慰める! 二人で風呂で戯れるシーンとか、考えただけで笑えて来るぞ! 最後は二人が抱き合って終わるのだ。くううううう〜っ、感動じゃ! この終末感などは『ショーン・オブ・ザ・デッド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110617/1308283794)にも通じるものがあるよね。


 ユアン・マクレガーの尻とチンコ、エヴァ・グリーンの乳が最大のみどころ。あとは口紅を貪り食うおばちゃん(その前のシーンではいい人)! 五感がなくなればなくなるほど、人は拠り所をなくして、シンプルに寄り添い求め合うのだ、ということを言いたいのなら、それが「症状」として出てしまう展開は誘導的に過ぎるし、そのことがドラマを浅くしている。症状の出る順番を入れ替えるだけで、もうあのラストにならなくなっちゃうしなあ。石鹸までかじった役者陣の身体張った熱演には意気込みを感じたが、心に響かない映画であった。

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