”かつて一つだった二人”『X-MEN ファースト・ジェネレーション』
あのシリーズが再発進!
第二次大戦末期、ナチスに捕らえられ母を殺された少年、エリック。怒りに駆られ、彼は磁気を操る人ならぬ力を発動させる。ミュータント……核開発が進む時代に生まれた新種の人類。同じ頃のアメリカで、人の心に入り込む力を持つ少年チャールズも、他人に自在に姿を変える能力を持つ少女レイヴンと出会っていた。十数年後、母を殺したナチスを追うエリックと、アメリカの平和を守るためスパイを追うチャールズは、不思議な運命に導かれて邂逅を果たす。
旧シリーズの前日談なのだが、『1』のエリック少年登場シーンが、まさかの完コピ! 一作目のあのシーンは、そこだけでマグニートーの生い立ちすべてを表現した名シーンだったけど、それをさらに掘り下げる。
それと平行して描かれるプロフェッサーX、チャールズの生い立ち。裕福だったが家族とは疎遠であることが語られ、レイヴンとの出会いも少年時代であったことが明らかになる。
この二人の登場シーン、ほぼ全てが両者のパーソナリティを示す対比となっていて、今作の根幹を成している。
エリック役はミヒャエル・ファスベンダー。近頃、クリストフ・ヴァルツなど『イングロリアス』組の活躍が目立つが、この人もドイツ出身ということで、風貌や佇まいに漂う古風さが、「アメコミ映画」の中で一味違う味わいをだしている。チャールズ役のジェームズ・マカヴォイも同じく。
こうして欧州出身俳優を主役に据え、ロシア語、ドイツ語などをきっちり入れ込み、アメリカだけじゃない世界、人類全体の話だと表現したのは、設定の整合性や絵的な要請に留まらず、一つの見識であるな。優生学を振りかざしジェノサイドを行ったナチスドイツのみでなく、冷戦時代においても(もちろん現代も)人種差別は続き、異人種への排斥は収まることがない。その問題提起を込めた原作や旧シリーズ『1』『2』の精神を受け継いでいると言える。
エリックとチャールズ、この二人の「深い」関係も見どころですよ。出会いのシーンからして背後から抱きついて耳元で囁く「僕も君と同じだ……」……キャーッ!
チャールズというキャラは、若い時は結構茶目っ気があったのだな、というのが今作の特徴なのだが、良くも悪くも羽目を外しきれないというか、ちょっと頭が良すぎるのがある意味悲劇的。子供の頃から「母親」にも距離を感じていて、レイヴンという同族との出会いで救われたのだが、逆に彼女に対しても距離を置いてしまう。誰の心も読むことができるが、そのオンオフも完璧な故にセーブをかけている。人の心に深く入り込むことの暴力性に意識的であり、それがあまりに簡単に出来てしまうため、肝心なところで踏み込まない、遠慮してしまうところがある。
対してエリックという人物は自分の衝動に忠実で、他人にもそれに正直であることを求める。怒り、悲しみ、憎しみ……力がその大きさに比例するために、復讐という目的のためにその感情を持ち続けている。正直であるがゆえに言葉と生き方でもって人の心に入り込み、魅了することができる。それが、チャールズに対して苛立ちを感じているレイヴンには魅惑的に感じられるわけだ。
しかしエリックの心の中には、復讐に燃える怒りの原動力である深い愛があり、母親との美しい思い出がある。それに触れたチャールズは、その感情が自らにはないものであると感じ、エリックがその力を引き出せば自分以上の強さを発揮すると確信し、その引き出し方さえも教えてしまう。後に最大の敵となるマグニートーの力も、結局チャールズが引き出してしまったものなのだ。
それも含めた後の展開、ラストもそうだし、それ以降の時系列の作品すべて、二人の関係があるがために起きたことと言える。
しかしエリックはゲイのはずが(それはイアン・マッケラン)、レイヴン相手にまさかのロリコンに走ったからびっくりした。この関係はあれですよ、『逆襲のシャア』におけるアムロとシャア、クェスの関係にちょっと似ている……。子供を子供として突き放すか、悪い事を教えちゃうか、二種類の大人の対比。やりたい放題のエリックと、色んなことに縛られてるシャアは全然違うけど。
いや〜、マグニートーさんはほんとにカッコいい。イアン・マッケラン時代も好きだったが、今作は演じるミヒャエル・ファスベンダーがオレと同い年ということもあり、今まで以上に親近感を感じるね。もっとも性格的には自分はどちらかというとチャールズっぽいかな、という気もする。両極端な二人はある意味、象徴的な存在で、誰しもの中にエリックらしさとチャールズらしさ両方が同居していることを表しているとも言える。
他のキャラクターも、続編を睨んでか掘り下げ過ぎず、かと言って浅薄にもならないように、うまくバランスを取っている。
二人の共闘する時代を描くために登場した悪役……セバスチャン・ショウはまさに真性の悪だね。一切の揺らぎのない、目的のためには手段を選ばぬ怪物として描かれている。冒頭はナチスに所属しているのだが、アーリア人種を「優生」とする彼らさえをも見下し、名を変え所属を変え、世界を争いに巻き込んでいく。演じているのはケビン・ベーコン、痩せた風貌に似合わぬ巨大な力の持ち主。前シリーズのストライカーのような「黒幕」的なポジションかと思っていたら、ミュータントだったので驚いた。能力の強さ的にファスベンダー無双かと思ってたのだが、まさかのケビン・ベーコン無双状態に仰天! 部下も破壊的なまでに強く、本部殴り込みのシーンは、監督の『キック・アス』の襲撃シーンを彷彿とさせる虐殺ぶり。
ブライアン・シンガーは心理描写は素晴らしいけど、あまりスペクタクル見せるのはうまくない、と前シリーズでは思ってたんだが、そこらへんもマシュー・ヴォーンの起用で見事に解消された。空間の見せ方がうまいと言うか、『キック・アス』よりもこれぐらいのスケールの方が実は得意なのかもしれない。主役二人と悪役、みんなスケールの大きい能力の持ち主なのがうまくはまったし、戦略地図などでワールドワイドな世界観を省略しながら見せる手法もうまい。『ウォッチメン』ほどの時代性は獲得できていないものの、キューバ危機頃の世界の肌触りはこういうものだったのではないか、となんとなく想像させる。
前シリーズ観た人にも楽しいよう作ってあるが、初めて観る人にもこれが『X-MEN』という作品である、という基本の部分をがっちり伝えてくれる、非常にまじめな作品。ダイナミックな映画的興奮も詰まった傑作リブートだ。
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