”茶ぐらい自分で入れろ”『エイリアン・コヴェナント』(ネタバレ)
リドリー・スコット最新作!
移住先の惑星に向けて航行していたコヴェナント号を襲った事故。船長や多数の乗員を失った船は、謎の通信を傍受したことがきっかけで、発信元の惑星へと向かう。大気があり作物が実るその星は、だが動物の姿が全く見えない。そして、謎の胞子を吸った乗員の身に異変が……。
前作『プロメテウス』が、白いやつだけでエイリアン出ないじゃん!と言われたので、今回は堂々の登場。しかし全米では残念ながらコケたということで、日本ではIMAX上映もない悲しい扱いとなりました。しようがないので立川シネマシティの極上爆音上映で鑑賞。
しかし内容は前作の暴力的要素をグツグツと煮詰めたかのようで、まあ大変イカもの的な怪作になっていたな……。海原雄山なら「こんなものは売り物にならん!」と言いそうで、だからこそ大コケしたんだろうが、好事家的にはたまらないというか……。
宇宙空間の航行中に事故が起きるあたり、珍作『パッセンジャー』をいきなり彷彿とさせるわけだが、その冒頭の事故で人望溢れる頼れる船長が、台詞もなくいきなり黒焦げになって焼死! 『20センチュリー・ウーマン』でも頼りなかったビリー・クラダップが副船長から昇格という、不安しかない人事。船長の妻だったヒロインのキャサリン・ウォーターストンさんは、彼との思い出の動画を見ながら涙にくれる。モニターの向こうから語りかけてくるのは……え? あれ? ふ、フランコーっ!
なんと顔を認識する間も無く焼け死んだのは、ハリウッドの誇る大スター、ジェームズ・フランコだったのであった。なに、この扱い……なんなんだろう、この感じ……こういう時、どういう顔すればいいかわからないの……。
目的地の惑星はまだはるか彼方なのだが、謎の信号を受信したコヴェナント号。就任したての新船長は功を焦り、その信号が放たれている星に行こうとする。やってはいけないB級ホラーの死亡フラグがガンガン立ち続けるこの展開……行った先の惑星には酸素があるので、マスクもせずに地表に降りるメンバーたち……。植物や作物が生えているが、なぜか動物はさっぱりいない。何か気持ち悪いものを踏んづけたら、『プロメテウス』を見た人ならおなじみの黒い胞子がふわふわと……。
「ここはいい星だ〜!」とハイになってるビリー・クラダップが、本当に下船前にヤクでもきめてきたみたいで、もう不安しか感じられない。そうこう行ってるうちに黒い胞子を吸い込んだ人はあっさりと体調を崩し、着陸している探査船に運び込まれるも背中を突き破って白いものが!
この辺りの流れは神がかっていて、人体が何者かに侵食されている、という絵面と、中から何かが出てくる、ということの掛け値無しの怖さが、それを目撃する乗員の完全なるパニックぶりで表現されている。怖くて怖くてしようがない根源的な恐怖を目にすると、人はパニクり、滑って転び、めったやたらに銃を撃ちまくるのだ、という、もう笑うしかないコントのような状況である。探査船が吹っ飛ぶシーンでは、ひさしぶりに腹の底から笑ったわ。
その後も白いものに襲われる乗組員だが、この無防備さ、対抗手段のなさがなんとも言えませんね。しかしそこに謎の人影が現れ、助けてくれる! 出た! ファスベンダー!
正確にはコヴェナント号には新型アンドロイドである、やっぱりファスベンダーの顔したウォルターが乗っていて、ファスベンは初登場ではない。新たに登場したのは『プロメテウス』で初登場し、本作オープニングでガイ・ピアースによって完成された初期モデル、デイヴィッドである。首だけになったはずだったが、身体は再生していて、どうもノオミ・ラパス博士に作り直してもらったらしい。
彼の案内で、かつてはエンジニアが住んでいたと思しき館に案内される一行。猛烈にまたクラシックなホラーの香りがしてくるが、こんなところに一人で住んでいる人は、だいたいろくでもない妄想に取り憑かれて、怪しげな実験とかしているんである。
あまりにひねりなく、お約束通りに話が進んでいくので、のこのこついていく登場人物たちがますますアホに見えてくるのだが、やっぱり着実に仕留められていくのであった。白いものももちろんまだ生きているのだが、館の中で待っていたのはお馴染みの黒い方……デイヴィッドにより生み出された完全生命体、エイリアンだっ! これがエイリアン誕生の秘密だったのだ〜!
人を生んでは滅ぼそうとするまったく理想的でない造物主のエンジニアと、その創造物の一人でありながらアンドロイドを生み出したウェイランド社長が、それぞれの創造物に対してまったく愛がなくて超傲慢なのだが、その傲慢をしっかりデイヴィッドも受け継いでいて、自分を作った奴らも許せないし、その結果の自分自身の不完全さも許せない。それゆえに新たな生命を生み出すことにこだわるんだが、元が歪んでいるのにろくな結果になるわけがない。
お茶入れるぐらいでめっちゃ嫌そうな顔をするアンドロイドって、道具としてはあまりに失敗作すぎるが、一つの人格を生み出すという点ではある意味大成功ですね。なんか『her』や『エクス・マキナ』に似てきたな……。
chateaudif.hatenadiary.com
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やたらと二役をやりたがるヴァン・ダム、クローンやAIでどんどん増殖していくミラ・ジョヴォヴィッチなど、自己愛や夫婦愛でやたらと出番の増えていく俳優は今までもいましたが、他人であるはずのリドリー・スコットに愛されすぎなファスベンダー、二役でほぼ出ずっぱり。ファスベンダー同士が戦うアクションなど、見ていてクラクラしてくる。
しかし映像はキレッキレで、最新技術で暴れまくるエイリアンは超カッコいいし、宇宙船上のバトルも最高! なんだが、あまりに成長過程が早く、先述したB級ホラー映画の文法に則って物事を端折りまくっているので、妙にドライブした快感がある反面、もはやリドスコ御大はエイリアンにまったく興味がないんだなあ、ということもよくわかる。
『エイリアン2』以降の存在をそもそも認めてないし、渋々出したもののこれからエイリアンサーガするつもりもないのでコンセプトの迷走も感じられ、それはまあヒットしなかったのもむべなるかな……。でもブロムカンプに作らせるのはいやなんだなあ。
さて、ソフト化した際のディレクターズカットにも期待したいところですが、フランコの出番は敢えて増やさないでほしいですね。
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