"どんな邦題をつけようと朝びらき丸は東の海へ行く!"『ナルニア国物語第3章 アスラン王と魔法の島』
ファンタジーの古典の映画化、三作目。
第二次大戦中のイギリス。アメリカへ渡った家族や兄姉と離れ、ケンブリッジの従兄弟の家に預けられたエドマンドとルーシー。従兄弟のユースチスとはうまが合わず、不自由な日々を送っていた。が、ある日、龍の首を持った船の絵を見ていると、そこから水があふれ出て三人を飲み込む。たどりついた先はナルニア。「朝びらき丸」で東の果ての海を目指す、今や王となったカスピアンと再会する。
『ハリー・ポッター』以降、小説界も映画界もファンタジーブーム。『ロード・オブ・ザ・リング』は別としても、その後は粗製濫造が相次ぎ、思いつきで書かれたようなものまでバンバン映画化され、映像化した途端にその空疎さを露呈し消えていった。確かに、まことに愚かしいことだ。
が、その現状を嘆くのは結構だが、『指輪物語』に次ぐ古典中の古典たる『ナルニア国ものがたり』を、昨日今日書かれて、映画はたった一作で消えていったような『エラゴン』や『ライラの冒険』なぞと一緒くたにするのは、勘弁していただきたいものである。
そのようなリスペクトなき現状に拍車をかけるかの如き、センスのない邦題も炸裂!
「アスラン王と魔法の島」ですか……DASEEEEEEEEE!
正しくは「朝びらき丸、東の海へ」だよ!
なんで二作目まで原典どおりだったのに、突然ぶち壊すんだ! FUCK!
序盤の現実世界のシーンが、毎回いいんだよなあ。短いんだが、戦時中に子供達が置かれた状況を端的に表現し、異世界に憧れる気持ちを印象づける。戦後に原作者がどういう気持ちで今作を書いたかを、汲み取っているように思う。
しかし、異世界ナルニアで、エドマンドとルーシーは、今までに無い試練に直面する。今回からピーターとスーザンは不在。兄と姉に頼りながらも、コンプレックスを抱いていたことが明らかになり、邪悪はそれにつけこんでくる。
7本の剣を集める、というクエスト形式で進行する物語の中、二人やカスピアン王子、今回から登場する従兄弟のユースチスの抱く迷いが、じょじょに解き明かされていく流れはシンプルでわかりやすい。その分、大人の観客には物足りなくもあるし、ストーリー性は低下、より教訓的な物語になった感は否めない。子供の頃に読んでた話だが、今になって少々鼻につくのがその辺り。
とはいえ、通過儀礼の物語に必ずなくてはならない喪失の痛みはちゃんと表現されているし、それを受け入れてこその成長である事も語られる。永遠に異世界で遊ぶ事はできず、人は皆、そこを去らねばならないのだ。
三作目ということで、キャストもそこそここなれてきたかな……。エドマンドの我の強さ、面倒くさい性格の表現なんて堂にいったものだ。ルーシーに至っては、事前の宣伝のスチール見て「うわー、ぶっさいくやな〜」と思うのだが、画面内で動き出すと、その目の力の強さと存在感が際立つ。「スーザンみたいに綺麗になりたい」という台詞があるが、いやいや、おまえの方がかわいいって!と叫びたくなる。しかし、今回から登場のユースチスのぶっさいくさはさらにそれを凌ぐのだが……果たしてルーシーを欠いた次作以降は大丈夫なのか?
前作より深みを増し、人格者となったネズミの人も素晴らしいぞ! コメディリリーフの立場から大きく前進し、子供達の成長に関わる重要な役どころに。もちろんモフモフされるシーンもあるよ! 『十二国記』の楽俊のモデルにもなった、カリスマ性を見よ! リーピチープ様は永遠だ!
さて、次の『銀のいす』は映画化されるのか?(これもタイトル変えられそうだ……) 『馬と少年』『魔術師のおい』は時系列も戻るし、地味だから、映画はあと二本でいいんじゃなかろうか。今作の興行成績はどうなるか知らないが、キリスト教入門でもあるこのシリーズは、なんだかんだで作り続けられるような気もする。
そうそう、3D映画でもあります。一応、ラストシーンはそれ考えて作ってあったんだろうなあ。まあでも2Dで十分です。
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