"聴け、神の啓示を。顧みよ、過去を"『ストーン』


 ロバート・デ・ニーロ×エドワード・ノートン×ミラ・ジョヴォヴィッチ


 放火と殺人の共犯で服役中の犯罪者ストーン。定年間際の仮釈放審査官ジャックは、彼を最後に担当することになる。常に犯罪者を疑いの目で見続けるジャックにストーンは業を煮やし、妻のルセッタに彼を誘惑するよう仕向ける。拒否しつつも、妻子との冷えた関係からじょじょに絡めとられていくジャック。だが、仮釈放を望んでいたはずのストーンは、ある日、刑務所内で「啓示」を受ける……。


 『スコア』以来ひさびさの、エドワード・ノートンとデ・ニーロの共演。あの当時も「演技合戦!」と言われたが、当時のデ・ニーロは『アナライズ・ミー』の腑抜けた泣き演技など、ほんとに演技派かよというようなしけた芝居をしていて、この『スコア』のクライマックスでもそれを完全に自己模倣。これって生半可な差別描写よりも遥かにデンジャラスな威力を備えてないか?というエドワード・ノートンのまるでモノホンやり過ぎ偽障害者演技のインパクトに完全に押され、最後も何か花を持たせてもらったなあ……という風にしか見えなかったのであった。


 服役囚が自らの妻に仮釈放審査官を誘惑させ、弱みを握る……というありがちな筋書きかと思いきや、中盤から物語はそこを逸脱し始める。出獄が目的だったはずの服役囚ノートンが、刑務所の中で突然悟りを開き、宗教に目覚める。服役囚ノートンの妻ジョヴォヴィッチの肉体に溺れた審査官デ・ニーロだが、弱みを握られたもののそれによって直接的な攻撃を受けることはない。しかし、自らの過去と宗教観に囚われ、自滅していく。
 ストーリー展開がネタフリだけに留まり、それ以降は取り立てて事が起こらない……のだが、それ故にそれぞれの難しいキャラクター性が際立つ。わざと関係性に曖昧な要素を持たせ、ストーリーの軸をぼかすことでより複雑化し、個人の演技が立つように仕向けているようにも見える。


 相変わらずの非人間的な美貌で、夫をしてエイリアンと呼ばせる天真爛漫なセックス狂の妻を演じたミラ・ジョヴォヴィッチは、おなじみのはまり役。凶悪な犯罪者のはずが、宗教にはまって憑かれたように悟りを口にするノートンの不気味さも素晴らしい。演技合戦の様相を呈する中で、ただ、こうしてどんどんモンスター的になっていくノートンは、そうした役を演じる事で、人間的に複雑な役を演ずるデ・ニーロの味わいを引き立て、やっぱり花を持たせているのかもしれない。


 若い頃、妻に離婚を迫られ、実の娘を窓から落とすと脅して回避した事のある過去を持つ主人公デ・ニーロは、夫婦関係にも満足を覚えられず、娘にも見放されている。犯罪者の更正に関わるが、すぐに起きる再犯に徒労感がつのるばかり。教会に通うが、神はもちろん何の救いももたらしてくれない。
 内省なき凡人を演じたデ・ニーロの演技は秀逸で、見応えがある。罪を悔いるでもなく、神を罵り、妻を避け、女も犯罪者も見下し……その先にあるものは何なのか? 「啓示」に意味を見出すかは人それぞれで、ラストシーンも観客の解釈に委ねられる。どのみち何も信じられない主人公は、新たな神さえもやがて罵るようになるのだろうが……。

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