『海賊岬の死体』ジェフ・アボット

海賊岬の死体 -モーズリー判事シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

海賊岬の死体 -モーズリー判事シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 新しい恋人も出来て人生順風満帆のはずのモーズリー判事。だが、彼女のおじが惨殺され、その土地には海賊の宝が埋まっていたという噂が……。
 一方、おじを殺した犯人グループは、宝の所有権を巡って仲間割れし、さらに偏執的海賊マニアの妨害を受けていた……。


 シリーズ前作『さよならの接吻』の感想。
http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20090204/1233724970


 捜査側と犯人側の視点が交錯する構成。事件の全体像がつかめているのは読者だけで、捜査を進めるモーズリーと、事態を片付けたい犯人は、不確定要素が絡まって混沌とする状況に翻弄される。


 海辺の町の明るいイメージとは対照的に、人間関係はあっけらかんと語られつつも陰惨だ。このギャップを平然と、しかし何作も執拗に描く作者の感覚は、いかにして身に付いたものなのだろうか。


 相変わらずのど田舎なのだが、人と交友関係が狭い分、最悪の状況に巻き込まれる確率も高くなる。シリーズを重ねる上で「生存」を約束されている主人公も例外ではなく、田舎の人間関係と世間の狭さにお気楽人生を打ち壊される。何者も「傍観者」ではいられないのだ。
 作者は血縁や愛憎関係を描く事に、かなり重点を置いていて、『図書館』シリーズ同様、モーズリーもそこへどっぷりとはまっていく。回を重ねるごとに重くなっていく展開は、今シリーズもやはり例外ではなかった。楽しく平凡に生きたいだけの主人公は、田舎の閉鎖的な感覚の中で、幸せをつかめるのか?

パニック! (ヴィレッジブックス)

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