『チェンジリング』

 1928年のアメリカで、本当にあった実話の映画化。


 行方不明になった息子。だが、警察が見つけ出した子供はまったくの別人。ミスを認めない警察は、母親を精神病院に放り込み、口を塞ごうとする……。


 これ、ありえない話みたいに思えるんだが、実際に起こった話であり、また、昔は怖かったね、みたいに捉える向きもあると思うんだが、それも違うと思うんだな。どこまで悪質かはさておき、警察、行政というのは、やろうと思えば簡単にこういうことが出来てしまう、ということで。
 この理不尽さは、今はあり得ないことではなく、いつ何時、我々に起こってもおかしくない事だということは、まず押さえておかなければならないと思う。


 主に母親の視点、息子を失った母の心理に寄り添って、物語は展開する。企画を聞いた時は、この役をアンジェリーナ・ジョリーってのはどうなのかな?とちょっと思ったんだが、観てみるとやはりこの「激情の人」の起用は大正解。「喧嘩は売るな。ケリだけつけろ」という決め台詞と主演だけ取り出すと、何のジャンルの映画かわからんぐらい決まってる(笑)。これはイーストウッドの矜持であり、それを体現している役者がジョリーだということに他ならない。


 実際に子供をさらっていた連続殺人犯(これ、「蠍座の男」とかぶるんですけど(笑))と、腐敗した警察官僚の描き方が、人間的ではあるのだが、あくまでおぞましいものとして描かれている。ゆえに、作劇としては勧善懲悪に近く、むしろ安心して観られる題材。イーストウッドにしてみれば、さほど考え込まずにサラッと撮れた作品なんではないかな。そういう意味では少々物足りないが、それでも水準以上の傑作だ。

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