”9割の暖かいまなざし”『人生の特等席』
ひさびさ、イーストウッド主演作!
名スカウトとして慣らした男、ガス・ロベルだが老境に達し、密かに視力の低下を抱えていた。疎遠だった娘のミッキーは、異変を知り、自分の弁護士としての仕事を抱えながらも父のスカウトの旅に同行することに。最初はいがみ合っていた二人だが……。
巷では「いつ遺作になるかわからんから、観に行っておこう!」なんて言われてたりするこの映画。冒頭からチンコに話しかけるイーストウッドが登場し、老人力満開の映画になってることは間違いない、と思いましたが、意外にバランス取った作り。娘役のエイミー・アダムスと、息子ポジションのジャスティン・ティンバーレイクの合わせ技で御大の存在感に対抗し、両世代を割合均等に描いて対比にしている。で、若者世代の二人を描くことで、娘が父と共通する部分を多分に持ち合わせていることを強調する、この人物配置が定石通りという感じで上手い。
監督のロバート・ロレンツは、長年イーストウッドの下で助監督や製作をやってきた人で、今回が監督デビューになるんだね。言うなれば彼もまた息子ちゃんポジションなわけで、彼のデビューに箔をつけてあげるべく、イーストウッドお父さんが主演してあげた、という構図。果たして全編が「子の世代から観たイーストウッド」とでも言うべき視点に貫かれている。頑固なんだけど骨っぽくて、元気なんだけど時々危なっかしい、そんなお爺ちゃんになったお父さんへの敬愛と親愛の眼差しだ。時に話合わねえなあと思いながらも、信頼できる愛すべき人であるイーストウッド。その頑固さや昔気質が、時にすれ違いの元になることもあるし、自らを損なうような生き方をさせてしまうこともある。でもそれらはイーストウッドの生き方を見て来た自分にも受け継がれた共通点だし、共に折り合って生きて行こうじゃないか!ということ。
すれ違いを重ねて、自虐的、自罰的な生き方をしてしまっている親子の再生のドラマに、野球に対するややアナクロな愛情が絡み、ドラマを盛り上げる。色々と見たような展開も多いし、パソコンや携帯に対する悪意は古くさいし、それの裏返しとして出来過ぎの部分もあり。悪役の絵に描いたようなしょうもなさときたら! あと、冒頭の馬の夢はさすがに浮いてたかな……会社のロゴかと思ったよ。それらも含めて教科書通りという感じだが、役者の好演で話のあざとさをカバーしている。見えた! 聴こえた!と身体性に絡めて主張されると突っ込めないしな。
イーストウッドの昔のスチールなど使って、若い頃を表現しているのだが、スカウト時代の記念写真がまったく『ダーティ・ハリー』そのものだから違和感ありありで面白い。どう考えても44マグナムぶっ放し、犯罪者にも容赦しねえだろうなあ、というルックスなんですが、実際にそういうエピソードを強引に絡めてくるあたり、もはや確信犯だ。
イーストウッドの友人で仕事仲間にジョン・グッドマンということで、こちらは元ベーブ・ルース(『夢を生きた男 ザ・ベーブ』で、ひどいスイングを披露してましたね!)。
原題の『トラブル・ウィズ・ザ・カーブ』も邦題の『人生の特等席』も、どちらもちゃんと台詞に出てきたし、そのあたりも良かったんではないかな。
さて、映画の9割まではそうしたお父さん、お祖父ちゃん世代に対する暖かいまなざしで占められているのだが、話が引退云々に絡むと、微妙に本音がにじんでるような気がする。いや、もしかイーストウッドが今作を監督・脚本してたら、たぶんこんな話にならず、エイミー・アダムスは打球を頭に喰らって半身不随になるか、幼女時代に別の子に入れ替わってるかしているような気がする。で、イーストウッド自身はジャスティン・ティンバーレイクを押しのけてレッドソックスの新たなスカウトになる、と。でも今作では「バスで帰る」ことが正しいことのようになってるわけで……。そこに秘められた思いはやはり、
「もうアカデミー賞を独り占めするのはやめて、僕たち世代に任せて引退してください!」
という、抑え難い本音なのではないかなあ。でもイーストウッドの回答は常に、
「考えておくよ!」
……なんであることも想定済みなんだねえ。色々な意味で監督ら世代とイーストウッドの深い関係性がにじみ出た映画でありました。
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