”無垢なものは無軌道なのではない”『コップ・カー』


少年たちがパトカーを勝手に運転したら…!映画『COP CAR/コップ・カー』予告編

 ケビン・ベーコン主演作!

 いつもの「家出」をして歩き回っていたトラヴィスとハリソンの少年二人は、空き地で乗り捨てられたパトカーを見つける。ドアに鍵はかかっておらず、車内にはキーと銃が残されていた。怖いもの知らずの二人は、やがて盗んだパトカーで走り出すのだが……。

 コップ・カーとはそのものズバリ、パトカーのこと。軽装で、いかにもカジュアルな家出という感じの少年が二人。二人だけの『スタンド・バイ・ミー』か、あるいは『リトル・ランボーズ』と言った風情で、やや兄貴分っぽい短髪の子と、おばあちゃん子らしいもう一人。短髪の子が言った言葉を、もう一人が鸚鵡返しするという冒頭の遊びが、二人の関係性を端的に見せる。

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 その二人が見つけたのは、木立の中に駐車してあるパトカー。警官の姿は見当たらず、ドアの鍵は開いている。警官がいるかもと警戒しつつ、ちょっと触ってみて、段々と大胆になって近づいて見て……ついには乗ってしまう。それでも帰ってこない警官。ちょっとだけ動かしてみようか……? あ、エンジンかかっちゃった……。
 このあたりのガキどもの挙動がめちゃリアルで、自分の子供時代を思い出す。ここまで大胆ではなかったが、危険が迫ってると見立ててのごっこ遊びなど懐かしい。
 見よう見まねで運転し、ついにパトカーは原っぱを爆走。あまりにだだっ広く何もないのでぶつかる心配もないし、運転も上手くなってくる。

 一方、持ち主の保安官ケビン・ベーコンは、その近くに穴を掘って死体を捨てていたのであった……。この死体と彼がどういう関係なのかはぼんやりと匂わせられる程度。戻ってみるとパトカーがない……!? 本部に電話し、無線が壊れたと嘘をついてチャンネルを変えさせ、盗まれたパトカーとのみ交信できるようにするあたり、なかなか芸が細かい。
 が、ようやく無線で呼びかけたと思ったら、ガキどもはパトカーを放り出して遊び呆けているのであった。積みっぱなしだった銃もしっかり遊び道具にされているよ!

 子供が狂気の警官に追われる話、と言うよりは、この少年二人の無軌道さがこの時点では完全にケビン・ベーコン保安官を凌駕している。殺人も辞さない悪徳警官というモンスターを、より無軌道な怪物が翻弄するというコメディのようだ。爆走するパトカーの運転手が子供なのを、すれ違った車のおばさんが目撃するあたりもシュール。

 必死に追走するベーコンだがなかなか身を結ばず、これはもしかしてこのまま一切出会わないままに破滅に追い込まれちゃうんじゃないの、と思ったのだが……。

 パトカーのトランクに監禁されていた男を見つけたガキども、その口車に乗せられて彼を解放し、逆に捕まってしまう。やっぱり所詮ガキはガキで、口八丁には敵わず、大人の世界を思い知らされちゃったな……。が、これをやるのがベーコン保安官ではないので逆転のカタルシスも薄く、まあ既定の流れなんだろうが、この人質云々の展開がどっかで見たようなすごく凡庸なものに感じられる。
 さぞこれから恐ろしい目にあうのかと思いきや、バカな悪党は所詮バカな悪党で、ずるずると自滅していくしな……。

 事細かに描かれるガキの生態のディテールは最高で、それだけで充分に面白いが、対比となる大人がつまらなさすぎで、せっかくケビン・ベーコンを起用したのにこんなもんか、と残念な気持ちになりました。しかしこの監督、次の『スパイダーマン』を撮るらしいが、『シビル・ウォー』に出てたトム・ホランド君はまだいい感じに中坊みたいなクソガキ感があって、これはうまくハマればちょっと面白いんじゃないかと思いましたね。

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