"ラスト・メッセージ"『ライジング・ドラゴン』(ネタバレ)


 ジャッキー・チェン、最後のアクション大作!


 阿片戦争の折、中国から流出した十二支にちなんだ像。世界中のアンティークを売買するマックス・プロフィット社は、市場に登場していない残り六体を求め、「アジアの鷹」と呼ばれる凄腕トレジャー・ハンターのJCに捜索を依頼する。JCはチームの仲間と共にパリへ向かうのだが……。


 いよいよ還暦を目前にしたジャッキー・チェンが、ついに最後のアクション大作を自ら撮ったということで、初日に行って参りました。最後と言いつつあくまでアクション「大作」をもう撮らないと言っているだけで、『ベスト・キッド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100824/1282621970)や『1911』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111208/1323340843)などのように、椅子振り回したり梯子よじ登ったり、ちょっとした小技は今後も見せてくれると思いますがね!
 アクション引退を惜しむ声や、衰えを嘆く声もありますが、こうして60歳間近まで五体満足でやり通し、ついにこの日を迎えたことに関して、僕は感謝と共に安堵の気持ちでいっぱいになりましたよ。数々のスタントを振り返れば、脳味噌はみ出たり、ヘリのローターで頭吹っ飛ばされてたり、サイに踏みつぶされたりしてたかもしらんのだから。我々観客はのんきにそれらを消費し、痛そうなNGシーンでも無責任にゲラゲラ笑ってきましたが、すべては紙一重であり、小さな偶然の積み重ねであり、こうして最後の時を迎えられたことは本当は奇跡的なことであるのかもしれません。


 映画の内容は、全てにおいていつものジャッキー! ……というよりは、意図的な全部乗せにしていますね。大雑把に分けると、


 1.大掛かりなギミックアクション
 2.セクハラを交えたドタバタ
 3.小物を使ったカンフーファイト
 4.メッセージ性


 ……ということになりますね。まずは1番に当たるのが、冒頭のローラースーツで道路を駆け抜けるシーンと、クライマックスのスカイダイビング。厳密には前者と後者は別分類になるんでしょうが、昔ならほんとに飛んでたであろうスカイダイビングも、今では機械を使っての空中浮揚になり、まあギミックものに分類していいかと思います。『ドラゴン・ロード』の試合シーン、『プロジェクト・イーグル』の送風機、『ファイナル・プロジェクト』の水中バトルなどにつながる系譜ですね。
 まあ相変わらず危ないことをやってるなあ、と、メットかぶってるんだからスタントマンでも良かろうに、あえて自分でやってしまうジャッキーに何かハラハラしてしまいます。でも、こんな気持ちを味わうのも、今回が最後なんだなあ……。


 中盤は犬に襲われパラグライダーで脱出する泥棒劇と、無人島に漂着した難破船でのドタバタ! 女性キャストもここに総投入し、あられもない格好で悲鳴をあげさせ、ついでに危ないこともさせるいつものパターン。ベタなギャグもだいたいここに突っ込んでおります。いや、僕も昔の僕ではなく、ベタなギャグを心から面白いとはもう思わないの程度には、歳ってやつを取ってしまったのだねえ。けれども、それはジャッキーといっしょに取ってきた歳でもあるんだよ。


 果たして本当にストーリー上において存在意義があるのかどうか判断しかねるでかい工場(しかもなぜか人質がそこで監禁される……チェン・ボーリン(笑))に乗り込んだジャッキー、そこでは遺跡荒らしの欧米人と男女ペアでアクロバティック対決! ソファーの上に乗ってそこから離れずに戦う、という縛りありの戦いで、テクニックの妙味を見せる。もうこの味はジャッキーじゃないと出せないよね。
 さらに工場内で、多数を相手に大立ち回り! いや〜これですよ、これこそがいつものジャッキーアクション。周囲のものを振り回しながら蹴って殴って飛んで倒れて痛そうな顔をして……。これ自体、見るのがちょっと久しぶりだったよなあ、そう言えば……。もう見ることもないんだな……。


 さらに、『ラスト・ソルジャー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101126/1290775634)、『1911』でも見せた、世界に向けたメッセージが今回もありますよ。世界に散らばった財宝や文化遺産はその国の元に返そう、それを売買し私腹を肥やすことはもうやめよう、ということですね。大きな発信力を持ったコンテンツとなったジャッキー・チェンが、それを責任と捉えメッセージ性を強めていく、これは全く自然な流れと申せましょう。この程度で「政治的メッセージが強い」とか言っちゃったら、さすがにそれはナイーブすぎるだろう。ジャッキーにそういったものとは無縁の明るく楽しいものでいてほしい、というノスタルジーもわからないでもないですが、これこそが今のジャッキーでもあるんですよ。我々観客が今の我々であるようにね……。
 まあしかし、最後のライバルからのリスペクトも含め、「オレが本気出せば、異民族も理解しあい世界も変わるよ」という、誇大妄想スレスレのごんぶとなジャッキー・イズム、これこそがまさに表現者ジャッキー・チェンの凄味だよね、と感じ入ってしまったわ。


 かくなる全部乗せ中華弁当のような作りのせいで、まあすべてががっちり溶け合っているとは言い難い、見せ場や展開がストーリーにきちっとつながってるものになっていないことは否めませんが、いいじゃないか! 最後なんだからあれもこれも入れたかったんだよ!


 ラストの火山の壁面を転がり落ちるシーンは、シリーズ一作目になる『サンダーアーム』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110406/1302102330)の崖下りを彷彿とさせ、さらに終着点で御丁寧に後頭部を打ち付けるものだから、かの作品で頭蓋骨かち割れた事を否応なく思い出させられたよ。そのまま完全に包帯ぐるぐる巻き、病院送りの満身創痍でエンディングを迎えるところも珍しい。ジャッキーがいつもの笑顔で「もう限界なんだよ。でもやり切ったよ」と言っているように思えて来る。


 今回、ほとんど初めてではないかというぐらいに作中でも妻帯者であることを強調し、出演女優との恋愛要素を入れずに通したところもポイント。最後のゲスト出演の連打、スー・チーダニエル・ウーの登場にももちろん唸ったが、その後に本物の奥さんの一瞬だけの登場! ずっと危ない事にかまけていたけれど、これからはもう少し君の元へと帰るよ、家庭を大事にするよ、という宣言ですね。そんなこと家で言うたらええやん、と普通は思うんですけど、いいんですよ! 最後なんだし!
 直前に『WHO AM I?』の頃に書かれた自伝を読んでいたので、映画作りに込めたジャッキーの意志や哲学が随所に読み取れた。またこの本で初めて妻子の存在を語ったのだが、その辺りも今作を観るとより感慨深くなったね。みんな、一家に一冊は置いておいた方がいいですよ!


 エンディングでは、犬にもしっかり噛まれてたNGシーン集に続き、ジャッキーから我々観客に向けてのラスト・メッセージが! いやはや、平気で続編作った『THE LAST MESSAGE 海猿』のようなことになる気がしないでもないし、実際引退はしないんですけど、でもこうして我々にメッセージを届けてくれるところが嬉しいじゃないか!
 ジャッキーありがとう、ありがとうジャッキー。僕の人生の傍らには、いつも映画作りに命を賭けていたあなたがいました。今までお疲れさまでした。少し休んで、これからは無理をせずに映画を作っていってください。また劇場で会いましょう!

サンダーアーム/龍兄虎弟 x プロジェクト・イーグル Set [Blu-ray]

サンダーアーム/龍兄虎弟 x プロジェクト・イーグル Set [Blu-ray]

I AM JACKIE CHAN―僕はジャッキー・チェン 初めて語られる香港帝王の素顔

I AM JACKIE CHAN―僕はジャッキー・チェン 初めて語られる香港帝王の素顔