"ノーアクション! ノーギャランティ!"『海洋天堂』
ジェット・リーが脚本に感動し、ノーギャラで出たと言う作品。アクションもないのだが、つまりいつものギャラはほぼアクション料という解釈でいいのか?
自閉症の息子ターフーを抱えるシンチョンは、末期の肝臓がんに冒されていた。妻に先立たれ、男手一つでターフーを育ててきたが、自分亡き後の息子の人生に希望を持てないでいた。しかし、心中に失敗したことで、この世にはまだターフーの居場所があるのでは、と考るように。ターフーを受け入れてくれる施設を探す一方、生きていくために必要なことを教えようとするシンチョンだが……。
油断してたら冒頭から入水心中シーンで始まったので、ちょっとショッキングだった! しかもその後、平然と街中を歩いてるシーンに変わるので、「え、これは最後に冒頭の死ぬシーンにつながる? あるいは死んでたことが最後に明らかになる?」とトンデモ映画化を夢想して余計にハラハラしたのだが、息子の方が泳ぎうま過ぎで助かってしまった、服は潮臭い、ということが台詞で語られ、あっさりと平常運転に。うーむ、このシーンは実際にやってほしかったなあ。
さて、かつては最強と呼ばれた武術の達人であったお父さんですが、今や末期ガン。妻には先立たれ、自閉症の息子と二人暮らし。しかし今回ノーアクションなのはいいが、向かいに住んでる雑貨屋の女性には惚れられていて、ガンだし息子もいるしシャイだから遠慮して口説けない……と、ここらへんはいつもと同じキャラなのであった。
父と息子という関係性についても、実は『新・少林寺伝説』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100924/1285305950)、『D&D 完全黙秘』で演じているので、完全に新境地というわけでもないよね。むしろ、演技面に関しては、『ウォーロード』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20090519/1242740411)と共にここ十数年の集大成としての側面が強い。
お話はもう本当に当たり前のこと、父一人で背負うのではなくその必要もなく、多くの人が助け合って支えていくしかない、ということを丁寧に語る。ターフーが自分の子なら? 向かいに住んでたら? 部下の子なら? 運転してるバスに乗って来たら? その時、僕は、僕たちはどうするか、ということを問うている。登場人物があまり相互に絡まず、幾つかのエピソードの羅列のようになり、物語的な盛り上がりは少々物足りない。が、それはまず個人としてどうこのことに向き合うか、ということの表現でもある。それは本当に難しいことだし、だからこそ、登場人物が一堂に会する終盤で、初めて水族館の館長も考えを変える。自分一人で背負い込む必要があるわけではない、多くの人がいて支えているからこそ、自分もそこに加わろうと。これは個人の問題であるが、それは社会に住む個人すべての問題でもある。
若干、淡々としすぎなきらいはあるが、『唐山大地震』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101224/1293165278)もそうだったし、まじめな中国映画ってのはこういうもんのような気もする。個別のエピソードも、ドナルドやイルカ、ぬいぐるみなど小道具がそれぞれ効いていて、しっかりとオリジナリティのあるストーリーに作られている。
しかし、ジェット・リーが亀仙人になる展開には驚いた。『ドラゴン・キングダム』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110226/1298650225) で共演したジャッキーが、『ベストキッド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100824/1282621970)のミヤギ役(名前は違うが)という、日本発の『ドラゴンボール』のキャラクターである亀仙人と同じ、日本に縁のあるキャラクターを同時期に演じたことと、奇妙な符号を感じたなあ(そんなわけあるかっ!)。
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