”ヘイ、ブラザー! ヨオ、メン!”『ゲット・アウト』


『ゲット・アウト』予告編/シネマトクラス

 スリラー映画!

 アフリカ系アメリカ人の写真家クリスは、白人の彼女ローズに招かれ、彼女の実家を訪ねることに。両親が自分が黒人と知らないと聞き、気詰まりなものを覚えるクリス。不安と裏腹に、両親には歓待を受けるのだが、不可思議な違和感がつきまとう。深夜、眠れずに起き出したクリスは、不可解な行動をする黒人の使用人達を目撃した直後、ローズの母に催眠療法を持ちかけられ……。

 とにかく前情報入れずに見たほうがいいと言われていた映画。冒頭、黒人青年が何者かに誘拐されるところから始まるので、主人公がこれから不穏な目に合うのだけはわかる……というところから始まり始まり。白人のガールフレンドの生家に招待されて行くことになったが、ご両親は娘の彼氏が黒人とは知らない!という。
 まあ避けては通れないこととはいえ、実に気詰まりですね。父親は「オバマ支持者」だそうで、そりゃあ共和党支持、トランプ支持と言われるよりはましだが、そういう問題でもないような気がするしな。
行く途中で鹿をはね、白人警官のパトカーによる現場検証。ここでIDを要求されたりして、実に感じが悪い。ここは先だっての『ドリーム』とそっくりで、あれから何十年も経ってるけど黒人は未だに同じような疑いを持たれるのだ……。

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 かなり隅々まで伏線が張り巡らされていて、この序盤のシーンも後々全部拾ってくるんだが、「彼女の実家に行く」という嫌な緊張感が最初からあるせいで、まだ何も起こってないうちから全然気が抜けない。さあ行った先の両親の感じは、少々上滑り気味だが、家で雇われている使用人の黒人男女がどうもおかしい。何が、というと説明できないのだが、ステレオタイプな使用人感が嫌、というのともまた違う。役者の演技も最高!
 さらにパーティが催され、大勢の白人がやってくるのだが、彼らの目になにか奇妙な期待が感じられ、大変居心地の悪い思いをすることに……。
 パーティに来てる唯一の黒人に主人公が声をかけるあたりで、もろにそのギャップが出る。単に見た目の問題じゃなくて、文化を共有している相手がいるか、「ヘイ、ブラザー!」と声をかけあえる相手か、というのはかくも重要なのだが、それがまた思わぬ形で裏切られることに……。ここでタイトルの「ゲット・アウト」が台詞として登場するが、真相がわかってみるといくつもの意味が含まれているんですね。

 オチがわかった後で振り返るとわかるのだが、確かに今作に登場する白人たちには、「黒人」への生理的嫌悪や、強烈な忌避感は持っていないし、表向きにはそういう扱いもしない。ある種のリスペクトさえある……。ただ、そのリスペクトは、健康であったり優れた運動能力を持っていたりするという、「性能」に対するものなのだな。彼ら個人個人の「人格」であるとか、総体としての「文化」にはまったく興味がない。それは、かつて黒人を奴隷として扱い、優劣を決め値段をつけた『マンディンゴ』や『ジャンゴ』の時代と、実はさほど変わらぬ思想なのかもしれない。

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 主人公の留守中に犬の世話を頼まれてる親友、空港警察勤めのノリの軽い男がやたらと面白くてギャグパートを引き受けてるのだが、嫌な緊迫感の続く今作において一服の清涼剤的存在になっている。一応、話のつなぎとして必ず入れておかないといけない、警察に通報するけれどすげなくされる、というまったく面白くない儀式としての展開を面白くしちゃうのがセンスだな。今年は『人魚姫』でもあったね。黒人が黒人刑事に訴えてるのに、話の内容が荒唐無稽すぎて全然受け入れられない、という悲しさ……。「性奴隷」というパワーワードが素晴らしいが、真相はもちろん違うのだけれど、前述の『マンディンゴ』を思い返せば決して遠くはない。
 主人公の反撃する展開でも、その頭の良さや機転が描かれていて、ある意味「性能」リスペクトは正しかったということが裏付けられますね。ところでケイレブ・ランドリー・ジョーンズも出ていて、「MMAについてどう思う?」みたいなことを言うのでちょっと期待したが、格闘シーンはあまりマニアックではありませんでした。

 似た作品もないではないのだが、そのタイトル出すだけでもネタバレになってしまうので、この場では伏せておこう。とにかく予備知識なしで初見に臨んでほしい映画。今年は『ドリーム』とこれが二大黒人差別ネタ映画になりましたね。

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 ついに念願のボックス購入。前回のボックスは買えなかったからな。

”もし世界が百人の村だったら”『猿の惑星 聖戦記』(ネタバレ)


映画『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』予告編

 シリーズ完結編!

 戦争がコバの裏切りをきっかけに戦争が勃発して二年。軍隊の攻撃を撃退しつつ森に身を潜めていたシーザーたちだが、ある日、裏切りと奇襲によって妻子を失ってしまう。仲間たちと別れ、妻子を殺した大佐を倒すべく旅立つシーザーだったが……。

 今回もあまり期待していなかったが、人間対猿の100対100ぐらいのスケールの小ささにはまたも閉口。前作ラストで、いよいよ全面的な戦争を示唆していたが、相変わらずやってることは「もし世界が百人の村だったら」みたいなスケールに止まっていてガックリくる。正直、猿のCGに金も手間も費やしすぎだろ……。

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 対するはウディ・ハレルソン率いる軍隊で、悪辣ぶりに磨きをかけて、前作のゲイリー・オールドマンよりはいいキャラなんだが、生活感が全然なくて、これを人類側の象徴とされてもちょっと弱い。今回はいわゆる善人キャラが少女しか出ない上にファンタジー的なキャラなので、人類って一体どうしてしまったんだろう、と余計に思ってしまう。この山以外の場所に、軍隊以外の人は住んでいないのか……?
 現実の社会を舞台にした『創世記』から前作へ飛躍した時点で、周辺の人類社会については「まあなんとなく想像しておいてよ」と、その「滅び」を描かず逃げたわけだが、今作においても結局は猿によって「滅ぼされる」過程は登場せず。一作目のウイルスによって、人類はついに退化を開始し、旧『猿の惑星』につながることが示唆される。「そして猿の惑星になる」とウディ・ハレルソンが重々しく言うのだが、こういうのはキャッチコピーに留めておいて、その過程は映像と物語で見せて欲しかったなあ。
 局所的な戦い、個人VS個人の対決が、実は勢力同士、種族同士の対立のそのまま象徴であり、隠喩である……というのは結構なのだが、それだけでは大団円には弱いから、何とかして人類を片付けなければならない。
 実際は二つの勢力の将来を暗示するに留まるはずの二人の対決で、もう猿が勝ったことになってしまうとさすがにおかしいので、じゃあどうするかというと……雪崩だっ!
 人類を滅ぼしたのは雪崩だった! 猿はみんな木に登れたから助かったんだ!

 先細りの人類が、猿をゾンダーコマンドに仕立ててアウシュビッツもどきを作って弾圧する、という発想は面白く、さらにKKKとの内ゲバに発展するあたりのもう終わっている感は面白いんだが、猿軍団が逃げ惑ってるうちに雪崩が起きてみんな片付きました、というのはなんだかなあ。

 また、肝心のシーザーのスタンドプレーっぷりが、とてもじゃないが偉大な指導者という感じがしない。少人数でロードムービーしてる間に、みんな捕まってるやないの。「俺はコバだ」と言うなら、そこをもう少し徹底して欲しかったが、今作は第1作につながるというオチが先にあるせいで大胆な展開もできなかったか。アンディ・サーキスの顔芸に頼りすぎ。

 前作は、「中だるみ」だと思ってたから低評価だったが、今作が終わってみると「平均値」に近かったことがわかってしまった。やっぱりリメイクやらリブートやら、大していいことないな、と、また思わせられてしまったシリーズでした。

”私たちのマーキュリー計画”『ドリーム』


映画『ドリーム』予告A

 目指せ、宇宙!

 米ソが宇宙開発競争を繰り広げていた、1961年の冷戦下。NASAラングレー研究所では来たるマーキュリー計画を確実に成功させるため、優秀な計算能力を求めていた。天才的数学能力を買われ黒人女性として初めて特別研究本部に異動したキャサリンだったが……。

 今年のアカデミー賞がらみの映画、ラスト一本がようやく公開。NASAに勤める三人の黒人女性を描いたお話で、オクタヴィア・スペンサーはもはやおなじみだけど、主演のタラジ・P・ヘンソンは……『ベスト・キッド』のお母さんか? ジャネール・モネイさんはつい先日の『ムーンライト』で観たばかり。

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 これも邦題で揺れた映画で、『ドリーム』はあまりに一般名詞過ぎて全然インパクトがなかったが、作中でドリーム、ドリームと連呼していたので、まあ内容通りではあったか。カットされたサブタイトルの方は『私たちのアポロ計画』、映画のストーリー自体はマーキュリー計画を描いてて、その後アポロ計画につながりました……というだけなので、関係あると言えばあるが、別に宇宙開発の終着点がアポロ計画というわけじゃないからな。「私たちの甲子園」というタイトルで、県大会優勝まで描いて終わる話に、甲子園とタイトルつけるのでも看板に偽りあり感が否めないというのに……。

 冒頭、三人の乗る車が故障して立ち往生し、そこに警官がやってくるという展開が、時代は違えど後々公開の『ゲット・アウト』と全く同じ問題を孕んでいて、不安な気持ちにさせてくれる。三人は学識もあり、NASAという一見進歩的な職場に籍を持っているのだが、そこもまた現在の基準に照らし合わせると、ありえないほどの差別がまかり通っている。象徴的に扱われているのが「有色人種専用トイレ」であり、その計算能力を買われてマーキュリー計画の中枢に入ることになった主人公は、なんとその「有色人種専用トイレ」がオフィス近辺にないので、以前の職場のある棟まで800m移動しなければならない。

 オフィスでポットのコーヒーを飲んだら、翌日には有色人種専用コーヒーのポットが置かれ……いやはや、これいったい誰がやってんの?と言う感じだが、直接手を下したのが誰であろうが、この空気感をオフィスの白人誰もが共有している。

 上司であるケヴィン・コスナーは、何だかこの辺りがまったく目に入ってないようで、言われて初めて気づく感じ。この人は「結果が全て」という価値観に生きてるようで、それゆえに差別によって結果が阻害されると思うとそれは我慢ならない、ということなのだろうが、やっぱり当時の白人の限界か、ちょっとズレてる感は否めない。
 トイレの入り口の「有色人種専用」の看板を叩き壊し、どこでも使ってよし!と言うのだが、それNASA中の白人にまず言わないと意味なくね? 普通に近場のトイレ行ったら、「ここ使うなよ」と言われるんじゃなかろうか。まあ象徴的な意味合いでこういうシーンにしたんだろうが、どうも詰めが甘く思える。作中では、その後トイレ問題は起きないが、このあたり映画としての軽妙さを優先したせいかな。
 こういう軽さと、描写の緩さは表裏一体でもあるのだが、ハードコアな差別描写がなくとも、こういうチンケかつ陰湿な扱いを日常的にされることこそ、最も消耗させられることなのかもしれないな。

 マーキュリー計画に命を託す男、宇宙飛行士ジョン・グレンさんは全然偏見のない理想的な……というより、大らかすぎて何だかファンタジーのような、妖精のような存在になっている。いや、エリートの中のエリートの中でさらに努力してトップに立った、こういうアスリート的価値観の究極にいるような人間は、自分以外の人たちの違いとか気にしないというか、割とどうでもいいということなのかもしれないな。オレ自身と、それ以外のファンぐらいに思っているのかも……? そんな彼が計画直前に、天才の中の天才の中でさらに努力して数式をはじき出した「切れ者」の主人公こそを信頼するシーンは、実に腑に落ちるところでもある。またここを「能力がある人間だけは差別しない」という風には微塵も受け取らせないところが、今作の肝なのかもしれないな。実は重要キャラか。

 対して「偏見はないのよ」と言っちゃって手痛い一発を食うキルスティン・ダンストが、わかりやすくダメなキャラの代表的存在。あまりに構造としての差別を内面化しすぎていて、言われるまで気づかないのだな。
 『ムーンライト』のマハーシャラ・アリさんも軍人として、女性の仕事に対する偏見を内包してしまっているが、こちらも諭されてそれを見直す。
 こういう偏見って本当に消耗させられて、もういちいち口に出して指摘するのもアホらしくなるのだが、そうは言っても折に触れて言っておかねばならない。この映画自体もそういう存在であると言える。『ヘルプ』と並んで、深刻なテーマを複合的に扱いながら、軽妙で食いやすい映画で、その軽さもまた必要なのであろう。

 ところで、今時珍しいメガネ萌え映画でもあり、主人公の「クイッ」が最高ですね。特別美人ではないが、これがあるから妙にかわいく、頼もしく見えるから不思議だよ。

”気持ち悪い……”『スイス・アーミー・マン』(ネタバレ)


映画『スイス・アーミー・マン』予告編

 ダニエル・ラドクリフが死体役?

 無人島で絶望し、首をくくろうとしていたハンク。だが、まさにその寸前、謎の死体が目の前に流れ着いたことに気づく。ガスを噴射するその死体に乗って島を脱出したハンクだったが……。

 ポール・ダノダニエル・ラドクリフが並んで、ぼんやりと文系の香りがするキャストだな……。しかし中身は下ネタの連発。無人島で孤立し、自殺しようとしていたポール・ダノの前に死体が流れ着くところから映画は始まる。
 なんで首をくくろうとしていたのか、など、あまり詳しくは踏み込まず、どことなく具体性を欠く描写の数々は、まるっと心象風景のように見える。流れ着いた死体ことダニエル・ラドクリフは、尻から腐敗ガスを噴射し、ポール・ダノはそれに乗って島から脱出……あれっ!? もう島を出ちゃったよ! 宣伝では無人島サバイバルって言ってたのに!

 しかしながら漂着したところはもう少し広い陸地であることは間違いないが、人がいないのには変わらず、やっぱりサバイバルすることになるのであった。「島」なら、何か遠くに行って撮影しているような印象を受けるが、こう陸続きのところになると、実は近所の裏山あたりで撮影してるんじゃないの、という風に見えて、低予算感がすごいな……。
 死体が口から水を噴き出したり、相変わらずの「おなら」も出て、なにかと役に立つ死体をサバイバルキット代わりにして生き延びていくダノさん。この辺りのギミックの手作り感が面白くて、こちらは低予算感が逆にいい感じになっている。
 しかしラドクリフはずっと無言なのかと思いきや、途中から急に喋り出したから驚いた。こうなると死体がエゴ的存在に見えてきて、ますます心象風景チックになってくる。映画はやがて死体とのBL風味な様相も呈し、カオスを極める! 下ネタの走るところ、男子中学生が猥談しているようなホモソーシャル感もあり、あるいはこの無人の空間こそが男子の理想郷なのか、と考えさせられるね。苦労して現実世界に戻ったところで、女にはモテないし、親は冷たいし、いいことないんじゃないか……?

 それでも旅は続き、たどり着いた先はバスで出会った夢の女ことメアリー・エリザベス・ウィンステッドと家族が住む家の裏!
 心象風景が急に現実とご対面し、死体も黙り込む。この御都合主義的な近すぎな距離感が、また映画そのものの心象風景感、低予算映画ならではの閉じた世界感という感じで、さあ、そこで対面した「他者」からの視線はいかなるものなのか……? さらに通報を受けたお父さんも現れ………いや、速いな!

 警官、お父さん、夢の女に、死体との妄想生活が明らかにされるシーンの、いたたまれないような恥ずかしさと、いやこれこそが真実の自分なのだ、という開き直り、その究極として提示されるのがおならである。お父さんはおっさんでなおかつ少年の心をまだ持っているから、おならに笑顔になる! でもメアリー・エリザベス・ウィンステッドさんの「うわっ、キモっ……」というドン引き顔には、エヴァンゲリオン旧劇場版のラスト、「気持ち悪い……」を想起せずにはいられないのでありました。

”謎のエキシビジョンマッチ”『リングサイド・ストーリー』(ネタバレ)


『リングサイド・ストーリー』 本予告

 K-1映画!

 売れない俳優のヒデオを養いながら、弁当屋で働くカナコ。かつては大河ドラマに出たこともあるヒデオも、今ではオーディションにも落ち続け、マネージャーの持ち込む端役もことごとくふいにしている。そんな中、弁当屋をクビになったカナコは、プロレス団体WRESTLE-1の求人に応募するのだが……。

 K-1……のはずだったが、いきなり瑛太がプロレスの歴史を語るモノローグから幕開け。売れない役者瑛太を、弁当屋で働いて養う佐藤江梨子は、その弁当屋をクビになって途方に暮れる。求人誌で見つけたプロレス団体WRESTLE-1契約社員募集で、プロレス大好きの瑛太による偽手紙が功を奏して採用され、団体の裏方を務めることに。
 最初は汗臭い男に囲まれた職場に辟易していたが、段々と小団体ならではの温かみや人間関係、全てを手作業で生み出すプロレス興行の面白さに目覚めて仕事を楽しむようになる。一方、鳴かず飛ばず瑛太は、サトエリのステージパスをコピーして試合を見に忍び込んだりしていたが、彼女がレスラーたちと仲良くなって仕事にのめり込んでいくことに嫉妬。北海道を郷里に持つレスラー黒潮二郎から蟹をもらったことで、その嫉妬心が爆発し、「カニは腐っている」と横断幕を出して興行をぶち壊しに……。捕まってパスも取り上げられ、バックヤードで不貞腐れる瑛太

 どうもこの辺りの流れがおかしくて、あれだけ序盤にプロレス愛を語っていた男が、武藤社長の興行をむちゃくちゃにするような真似をするかね? さて、これでカニレスラーとの因縁が生まれたので、リングで勝負するという展開になるのかな、と普通なら思うところだが、サトエリは責任を取って辞表を出してしまう。しかしカニレスラーの伝手で、運営母体の同じK-1に転職することに!

 ここまで相当端折って書いているが、だいたい映画の半分くらいである。半分過ぎてやっとK-1出てきたわ。これは要はWRESTLE-1K-1の両方が同じくらいの比率でスポンサーについてるから、こういう風にバランス良く登場させねばならない、という大人の事情なのであろう。
 おなじみゲーオ・ウィラサクレックのKOシーンを始めとするハイライトシーン(また何回もやられるHIROYA……)を流し、華やかさをアピールするK-1。洗練されたオフィスでスーツ姿のスタッフに混じったサトエリ。転職に至るまでの展開こそむちゃくちゃだったが、プロレスから他の格闘技団体に興行スタッフが移籍してキャリアを積むというのは、あり得る話ではなかろうか。
 こうやってサトエリ主役で、格闘技興行の裏側を描いた映画にしたら結構面白くなったのでは、という気がする。プロレスとK-1、それぞれの職場の良さを対比させて描いたりしてな。

 さて、ここでも真面目に働くサトエリ。スター選手武尊が試合前のプレッシャーで練習場にこもっていたのを見つけだし、バンテージを巻いてあげてハグ……。この場面を、クマの着ぐるみの仕事を彼女に回してもらって来ていた瑛太が目撃し、嫉妬。入場時にその姿で背後から武尊の頭をどつく! 止めに入るセコンドの卜部兄弟がシュールだ。

 プロレスに続いてバックヤードで不貞腐れる瑛太。なんなんだ、このまったく同じ展開……。ここでK-1の女社長(誰?)が、「あんた武尊と勝負してみなさいよ」と挑戦する……なんだこの無理矢理な展開! 不自然すぎ。これだったらそもそも同じ展開でカニレスラーと勝負してたら良かったんじゃないか。次のK-1のエキシビジョンで武尊vs瑛太が急遽組まれることに。いや、本物の瑛太ならばまだなにがしかの話題性はあろうが、この作中の彼はVシネの端役俳優なんですけど……。いや、これはまったく乗れないな……。どうしてこんな話になった……。どうでもいいが、この女社長にもモデルはいるんだろうか。前田憲作ともめて、今でも宮田Pを顎で使ってたりするこういう人物がいるんだろうか。

 名もなき俳優と対戦、ということで、これはTwitterで口さがないK-1ファンが「武尊終わったな」「プロテクトいい加減にしろ」「天心から逃げるな」と散々書きそうである。この後は瑛太のロッキーばりの特訓シーン、卓球で鍛えた右フックの強化が描かれるも、やっぱり試合直前に逃げ出しそうになり、ついにサトエリも愛想を尽かす……。
 いや、この瑛太のキャラが全くのクズなので、ここまで何一つ共感できないのだが、登場人物は全員この男に甘い。やっとサトエリもここに来て……という感じだが、体感的に遅すぎ。そもそもたまの仕事も放棄して役者にさえ真っ当に取り組んでいないクズなのに、なぜ周囲はこの人間に期待し続けているのだろうか……? 「にくめないキャラ」を目指しているのかもしれないが、ちょっと思い入れが強すぎてうまくいってない。ずーっと地道に真面目にやってるサトエリと対比しちゃってるので余計にいかんのだろう。

 さて、試合シーンは『百円の恋』の監督であるからしてちょっと期待されたところなのだが、瑛太の見せ場は入場シーンだけ! この入場も会場はなんだか盛り上がってるということになってるが、無名俳優が気取って出てきてもこんな盛り上がるだろうか? 真面目なK-1ファンなら怒りだしそうなのだが……。そして試合はワンパン秒殺で終わります。急にリアルになったな……という感じだが、いくらなんでもど素人に苦戦とかやめてくれ、という現実のK-1サイドの要望なのかもしれないね。ここで無名俳優に苦戦したら「武尊終わったな」「プロテクトいい加減にしろ」「天心から逃げるな」とTwitterで(以下略)。

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 こうして大恥をかいた瑛太だが、これによって演技に開眼し、心機一転、次のオーディションに臨んで、サトエリともよりを戻す。この理路がまったくつかめないな……。ここで映画は終わるが、これで役者デビューしちゃうのは甘すぎるからさすがに描けなかったのだろう。
 撮影的には瑛太の背中を追うショットとか、美しい絵もあるのだが、どうも話が整理されていなくてしんどい映画だった。部分的には見所もあったが……。

 K-1ファン的には、やっぱり大スクリーンで見るゲーオはかっこいいな! 城戸もちょっと出番あって良かったな! と色々あったが、注目はラストカット。小澤海斗の試合をリング上から捉えたカメラがコーナーの方に寄っていくと……左右田泰臣がめっちゃこっち見ている! えっ、なんでラストを左右田さんのカメラ目線で締めるの!?とちょっとパニックに陥りかけたが、カメラはさらに奥、スタッフ席のサトエリを捉えて終わるのだった……。最初、実際の試合の映像かと錯覚してたから、余計にドキッとしたぜ。ここでタイトル、『リングサイド・ストーリー』! うむ、やっぱり瑛太がらみの話をごっそり削って、サトエリ主役の話にしたら良かったんじゃないの。恋愛要素が欲しかったら、それこそ武尊との年の差あるけど淡い恋ぐらいの話にすれば……それには武尊の演技力が苦しいか! 旧K-1のカリスマ魔裟斗とどっちが演技上手かったかに関しては今作だけでは判断できなかったなあ。次回はぜひ、魔裟斗の代表作『軍鶏』を超える熱演を見せてもらいたいぜ!
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”転生の犬”『僕のワンダフル・ライフ』


『僕のワンダフル・ライフ』予告編

 ラッセ・ハルストレム監督作!

 少年イーサンに救われ、彼の飼い犬になったベイリー。固い絆を結び、やがて天寿を全うした彼だが、転生を繰り返し、いつかまたイーサンに会いたいと願う。三度の転生を経て、ようやくその時がやってきた……。

 犬視点、犬がモノローグでしゃべり、何度も犬生を繰り返す、という、設定だけでおかしい珍作。さすがは『HACHI』のハルストレムだ……。
 最初の犬生はいきなり保健所に連れ去られて、子犬のまま死んで終わる。薬殺などの際どいところを見せないのに文句をつけるつもりはないが、これからフィクショナルな話を展開するにあたって、一発こういう現実的な話も見せておこうか、みたいなアリバイ作りにも感じたところ。それよりも、何回も転生するのにこれが最初の犬生というのはどういうことだろう、とちょっと考え込んだ。これ以前はなかったのか、無限じゃないのか。これもまた話の都合か……。

 次の犬生でメインのお話が始まり、雄犬のベイリーとして少年イーサンと共に成長することに。ここはさすがに丁寧にやっていて、転生云々のプロットを抜きにしても面白い。会社で意に染まない営業の仕事をやっている父親が段々と酒に溺れていき、イーサンが高校生になる頃に離婚して絶縁状態になるのだが、何せ犬視点だからあまり深いところには踏み込まない。が、『サイダーハウス・ルール』において、堕胎という対症療法に取り組み続けた医者の姿を描いたハルストレムであるから、そうして踏み込まないところこそが、らしいのかもしれないですね。
 イーサンはアメフトの有望選手となるが、放火によって負傷してその道を絶たれ、犬が取り持ってくれた彼女とも別れてしまい、農業学校に通うために地元を離れてしまう。そうして迎えた晩年、ついにこの世を去るベイリー……。普通のシーンなのだが、なんでこうペットが死ぬシーンってのは泣けるのだろうか。うちも猫を四匹亡くしているからかな……。

 さて、ここからベイリーは生まれ変わり、今度は雌の警察犬に。警官のおじさんは一人もので、犬と生活するその孤独が染みるぜ……。床で寝るように躾けられていたのがいつしかいっしょにベッドで寝るようになることで距離感を表現。このパートはアクション担当で、警察犬はこの警官が容疑者に撃たれそうになったところをかばって殉職する。犬を抱きしめて「救急車を呼んでくれ!」と叫ぶおじさんにまた涙!
 このシーン、撃たれる前に川に飛び込んで人助けするシーンもあるのだが、流出した撮影中の動画で役者犬が飛び込むのを超嫌がっていて問題視された。安全対策は講じてあった、というのはそりゃあそうだろうが、所詮賑やかしみたいなアクションシーンなんだから、別になくてもよかったのに……。

 転生するたびに犬が死んで、その度に涙を搾り取られるので、映画としてどうこう言うより、ちょっとずるいんじゃないか……という気さえするね。最終パートでやっとこさ、成長したイーサンのところに帰ってくる元ベイリー。予告編でもビックリして声出したが、デニス・クエイドになっているのは成長と言うよりものすごいオッサン化したように見える。またあれこれ取り持ってハッピーエンド!という流れまで文句のつけようもなく、やっぱり所詮は犬なのでそんなにすごいことはしていない、というバランス感覚がいいですね。やっぱり犬好きは必見であろうか……。