”魚槽に入りたいか?”『海にかかる霧』


 キム・ユンソク主演作!


 不漁に苦しむ漁船チョンジン号。廃船の危機を迎えたカン船長は、中国からの密入国者を運ぶ仕事を請け負ってしまう。不満を抱えながらも大金に目がくらむ船員たち。夜半、予定通り現れた密航船から、朝鮮族たちを受け入れるのだが……。


 またまた嫌な話っぽい韓国映画が来たので見に行ってきました。主演の人はアイドルらしいが……なんか丸こいな……。船長であるキム・ユンソクおじさんが実際の主役か? 『タチャ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150204/1423049410)や『ファイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140523/1400772190)でも存在感を発揮してましたが、さて、今作は……?


 会社の資金難で廃船寸前の漁船の船長という役どころ。不漁も続き、冷蔵庫も壊れそうだし、もうボロボロだ……。しかし、船長はその船を失いたくない。会社からの買い取りまで考えて、なんとか存続させたい……。船への愛着、と言うと簡単だけれども、この人、家では妻に目の前で浮気されて、その癖文句の一つも言えない弱々しい男として描かれている。牛骨で殴り殺したりもしないんだ! これはつまり彼の男性としての不能を現していて、職場である船でしかその権勢を振るえない寂しい実態が浮かび上がる。だから船を守りたい、違法な密入国に手を染めても、男でありたいんだ……!


 オカルト要素はないが、物語の始まりからすでに結構追い詰められている立場にあり、さらに自身の「船長」としての選択がドツボにはまり、どんどん状況を悪化させていくに従って『シャイニング』的に狂気を膨らませていく。


 舞台はさほど大きくもない漁船で、登場人物は韓国人の乗組員プラス、中国から来た多数の朝鮮族密入国者。途中からかなりのすし詰め状態になり、段々と不満のボルテージが盛り上がっていくのだが、中盤の船長ブチ切れシーンは超怖い! しかし、力で押さえつけようとする行為は、かならず反発を生むのだ……。
 ……と思ってたら、中盤に急展開が起きるのだが、そこが逆に面白みを削いでしまったような……。ちょっと拍子抜けしてしまったよ。もうすこし広がるような話かと思いきや、物凄い勢いで収束したな……。
 その後は待望のグロシーン! なんだけど、ここもあまり直接的に見せずに意外と上品だったので、あれあれあれっと思ってしまった。
 キム・ユンソクさんの狂気が全てを担う話になって、ちょっと弱かったかな……。まあこれぐらい演れる人ではあるが、ある意味定番芸でもあるわけだし……。


 『ハナ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130731/1375268357)の上がり症の最強選手役だったハン・イェリさんがヒロインで登場。地味なお顔なのが良いよ! ラーメンを貪り食うシーンが最高だね。彼女をえこひいきして隠し愛や結婚を口にする主人公が、また船長の感情を逆なでする。一時の幻に過ぎないというのに……。
 余韻の残るラストもまずまずで、まあ悪くはないという感じでありました。もう少しパンチが欲しかったところだが……。

パク・ユチョン in 海にかかる霧 航海日誌 Part.I〈公式メイキングDVD〉(初回限定生産)

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