”どこまでも踊り続けよう”『狂舞派』
大阪アジアン映画祭2014、四本目!
大学に入学し、念願のダンスチームに参加することができたファー。磨き上げたその技術と才能で一気に頭角を現すが、チームメイトと揉めたことで、脱退してしまう。おかしな男のしつこい勧誘に負けて太極拳サークルに入り、渋々練習を始めるのだが……。
2010〜12にそれぞれ『チョコレート・ソルジャー』、『孫文の義士団』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110312/1299929052)、『捜査官X』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120326/1332734955)と大物があったせいか、どうも去年あたりからアジアン映画祭はカンフーものに冷たいねえ……と思っていたのである。去年は『BBS住人の正義』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130317/1363583261)がCGカンフーやってましたがね……。今年もショウブラ特集こそありますが、なんぞ新作はないのか……と残念がっていたのでございます。
が、ここに思わぬ伏兵が潜んでいたのであった……!
主人公はダンス大好きな豆腐屋の娘。店で働き、客に豆腐を出しながらヘッドホンで音楽を聴きつつダンスのイメージトレーニング。それに合わせて、店中の客が踊り出す……って、これはまるで『少林サッカー』の饅頭屋のダンスシーンではないか!
そんなご機嫌なオープニングから幕を開け、大学に入学を決めた主人公は念願のダンスチームに加入し、頭角を表す。だが、そのチームには、今まで一度も勝てていない最強のライバルがいたのだった。
このライバルチームのアクロバティックぶりがまた凄いのだが、大学内のサークルでやってるグループと違い、これ一本でやっている感覚があって、最近復帰したリーダー格の男の本物感も手伝って、もう全然勝てそうな気がしない。だが、そのリーダー格の男は、ただ一人、この大学チームの中で主人公にだけは「型にはまらない」ものを感じる、と高く評価するのである。
しかし彼女を敵視するチームの女子ダンサーに笑われたことがきっかけで、主人公はしつこく勧誘してきていた謎の太極拳サークルに移籍してしまうのであった。直後、ライバルチームとバトルして惨敗する大学チーム……。
太極拳サークルの部長はひょろひょろの体型にチョビヒゲをたくわえた妙なルックスで、若年寄のような言動と謎の太極拳愛で、この前半の全てを持っていく勢いでドッカンドッカン笑いを取る。主人公も最初は辟易しているのだが、そこはラブコメ的なお約束、この太極拳野郎の、太極拳にかける真摯な思いや情熱、さらにお婆さんに親切という反則技を見せつけられるにつけ、急激に格好良く見えてきて、段々と気になる存在に……まさに映画のマジックですね。
『少林サッカー』のダンスシーンのようなオープニングから幕を開け、謎の太極拳野郎の活躍までは、まさにスポ根カンフー映画のオマージュで、このまま恋愛&太極拳映画にシフトして行く勢い。
しかし後半、映画はまさに換骨奪胎を遂げて、再びダンス映画へと回帰して行くのである。太極拳を楽しみつつもやはりダンスへの情熱を捨てきれない主人公の犯した過ちとは……。そしてそれを救った意外な人物とは?
太極拳を初めとして、いくつものキャラクターの言動や行動をすべて回収していき、えっ、これも拾うの?と驚かせる怒涛のラスト・パフォーマンスにすべてがつながっていく手際もさることながら、本物のダンスシーンのリアリティと、無名の若手役者たちの放つフレッシュさが、瑞々しく輝く。ライバルチームのリーダーが抱えるある「秘密」とそれに裏打ちされた存在感も素晴らしい。似た映画では『チアーズ』なども思い出したところ。
スポ根的、往年のカンフー映画的な特訓シーンなど交えて味を出し、太極拳のスタイリッシュさも交えて「隠れカンフー映画」的なテイストを発揮しつつ、ライバル側にも魅力ある人物を据えてあくまでダンスのパフォーマンス、アートとして競い合う物語としてまとめて、完成度を高めている。
またエンドロールが秀逸で、ジャッキー映画などと同じくNGやリハーサル風景などが収録されているのだが、それらがもはや役者たちの撮影前のリハーサルなのか、登場人物たちの本番前の練習風景なのか区別がつかない。ラストの素晴らしいパフォーマンスを見た直後なので、より一体感が増していくのである。
自分の観た回は夜の最終上映で、舞台挨拶やティーチインなどないノーゲストの回だったのだが、エンドロール後は大拍手が起きていたね。もちろん僕も拍手してしまいました。昨年の福岡の映画祭では観客賞を取ったそうで、さもありなん。
一本ぐらいはアクション物ねえとダメだろ、まあダンスだからそこそこ動きあるだろ……とあまり期待せずに見に行ったら、思わぬ拾い物でありました。今年のベストに入る一本になったな〜。日本公開は難しそうだがもう一回見たいね。なんとか海外版BDは手に入れたい。
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