"転落の快感、負の娯楽"『盗聴犯 死のインサイダー取引』


 夏の香港映画祭と称し、三本抱き合わせで公開中の一本。


 不正な株取引を監視する香港警察情報課。ある企業の盗聴と監視を行い、ついに社長ローがインサイダー情報をつぶやく決定的な瞬間を捉える。だが、その情報を得たヨンとマックスは、己の都合からその情報で株取引に手を出してしまう。先輩のジョンもそれに気づくのだが……。


 主演にラウ・チンワン、ルイス・クー、ダニエル・ウーの三人。ルイス・クーとダニエル・ウーは『単身男女』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110313/1300018060)で壮絶な争いを繰り広げた関係なんだけど、今回は同じチーム。でも同じチームだけど全然性格違う感じ! ルイス・クーが貧乏で大雑把、大家族で病気の子供も抱えている。一方、ダニエル・ウーは出世コースに乗り、大企業の社長の娘と結婚を控えているものの、それが元で余計なつきあいを強いられ、婿入りのためコンプレックスを抱えている。それをまとめて苦労するのがラウ・チンワン、ということで、家族っぽい関係でコミカルな味を出している。
 ベタベタな家族関係や恋愛描写、刑事同士の関係性など、香港映画ではよく見かけるガジェットがてんこ盛りで、見ながらこのままコミカルテイストで走りつつ、盗聴チームのプロフェッショナルぶりを見せる展開になるのかな……と思いきや……。


 金に困ったルイス・クーが、ダニエル・ウーを頼って盗聴した情報でまさかのインサイダー取引! 止めようとしたチンワンも懇願されてついに黙認! ここから数々の伏線が絡み合い、事態が雪だるま式に悪化して行く。いやはや自業自得、因果応報。仏教精神の垣間見える価値観に、香港映画らしい過剰さが絡む。この悪くなる一方の展開の面白さは、まさに負のエンターテインメントとでも言うべきもので、あまりにマイナスの事態の釣瓶撃ちなので逆に笑えて来る。そこをごまかすためにさらに嘘に嘘を重ね、不正を行い……。


 専門用語を交えつつ、株取引の影の部分に踏み込み、そこで人生を狂わされた者たちを濃密に描く。金に目がくらんだ主人公たちを断罪するのは簡単だが、全てを失いラストは文字通り「転落」していく姿の無常さには、もうそれ以上の言葉は必要ないだろう。みんな大変なことになるが、今回はルイス・クーが特にすごかったね。


 つーかこれ、パート1で続編があるものとばっかり思ってたから、メインキャラがえらいことになる展開に、順番間違えたかと思ったよ! パート2に続きますが、監督とメインキャストが同じなだけで、全然違う話ですから!

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