"初孫は三十一歳で!?"『過速スキャンダル』

 『サニー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120531/1338461888)の監督のデビュー作。 BSにて鑑賞。


 DJでタレントのヒョンスは、37歳。独身で人生の夏をほしいままにしていた。だが、ある日、自分のラジオ番組で、ある22歳のシングルマザーの相談を受けたことで人生が一変する。顔も知らない彼女に、息子と共に生き別れの父親に会いに行くことを勧めたヒョンス。それは番組の盛り上げを計る無責任な発言……ただそれだけのはずだった。だが、その相談相手の女は、自分が15歳の時に幼なじみに孕ませた娘であったのだ……。


 「唇の分厚い男」ことチャ・テヒョンを主演に据え、突然「父親」になってしまった男と親子関係を描く。『サニー』では「父親」キャラが不在だったわけだが、今作でそのテーマはもう十分にやり切っていたのだね。かの作品のようなノスタルジックさはないが、監督の上手さは随所に見て取れる。フラッシュバック演出のところは爆笑してしまった。同じ場所で登場人物が変わることでまったくシチュエーションが変わる様子も、シンプルだが効果的。


 序盤の主人公の言動がことごとくブーメランになっていて、娘の登場からグサリグサリと突き刺さり、スキャンダル危機を煽る展開が面白い。好き勝手生きて来た男が娘と孫によって、徐々に親として、家庭人としての責任に目覚めるのと、ちょうど行き詰まりを見せつつあったタレント業での変革がシンクロする。ここらへん、いい年になってきたチャ・テヒョン本人の評価とも対比されているのだろうか?
 親子関係を描くなら娘だけでも良かろうものだが、孫とその父親を登場させることで主人公の責任をも浮き彫りにしつつ、ついにすることのなかった育児の問題にも向き合わせる。最初は面倒臭さ全開だった主人公だが、徐々に家族関係の楽しい部分にも気づいて行くんだね。誰かと暮らす楽しさ、子や孫と心を通わせ、成長を見届ける喜び。そして、それらがあるからこそ責任感も生まれる。「父親」に育児の本能なんてなくて、それを獲得するには観念的に時間をかけて得て行くしかない。
 さらに三世代に渡る恋愛模様まで盛り込み、コンテストに事寄せた歌唱シーンまで入れて、サービス精神に溢れ過ぎ(笑)。隙のない作品で、非常に面白かったよ。

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