"死中に活を見出せ!"『崖っぷちの男』


 サム・ワーシントン主演作!


 ニューヨークのホテルの高層階、その窓を乗り越えて崖っぷちに一人の男が現れる。彼は元刑事だったが、ダイヤを盗んだ罪で服役し、刑務所を脱走した脱獄囚だった。だが、彼は冤罪を叫び、交渉相手に女性刑事のリディアを指名する。その行動に隠された秘密とは? そして2年前の事件の真相とは?


 ムショに入ってる男が実は訳ありで……ということで、最近観た『プレイ -獲物-』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120710/1341915249)と似た筋なんだけど、いろんな意味で対照的な話だったな〜。フランスとアメリカお国柄の違い、という風にくくってしまうと乱暴だと思うけど、家族関係の描き方一つ取っても全然違う。孤軍奮闘と一致団結、実際に金取ってるか取ってないか、自由と正義どっちが大事か、などなど……。今作において目指すものはあくまで名誉の回復であり、奪われた人生を取り戻すこと。どちらもそれぞれの国ではサクッとした娯楽作であるのだろうが、物語の終着点が全然違うのは面白いね。悪役のキャラクターについても然り。


 崖っぷちと言われると非常にネガティブな印象があって、落ちるか落ちないかヒヤヒヤするようなぎりぎりの話かな、と思いきや、そうではないんだね。主人公はもちろん追い詰められてはいるんだけど、それは刑務所での緩慢な死に追い込まれた状況から脱して、リスクを取って自らその崖っぷちに立つ、言うなれば「死中の活」を求めて行動している。
 観ているうちに「計画」の全体の構図がだんだんと見えて来て、序盤のいくつかの不審な行動も腑に落ちるようになる。計画自体は突っ込みどころも多い、びっくりするほど綱渡りな代物なんだけれど、待ってたって状況は悪くなるばかり、それなら無茶でも一発勝負に賭けて見よう、という心理はよくわかるなあ。


 で、そんな無茶な計画にがっちり加担してしまう家族たちがなかなか熱い。放っておくことだってできるはずなのに首を突っ込んで大活躍。無謀ながらも挑戦する姿が、リーマンショック以降、より顕著になった格差社会に対して物申す姿勢につながる。悪役のエド・ハリス、ダイヤなんか買って金儲けしてるだけでも嫌らしいのに、さらに貧乏人を食い物にしてムショに放り込んでしまうそのやり口、いったいどれだけ欲深いんだ。


 限定された空間を無線でつなげて、リアルタイム性とスピード感を出した演出も面白く、無駄にノーブラや着替えなどサービスも盛り込んでて楽しい一本。ウィリアム・サドラーも良かったね。