"あごひげは剃ったんだ"『アイ・アム・キューブリック!』
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バーで「私はスタンリー・キューブリック、君を次の映画に起用したい。ところでカードを置いてきてしまったので勘定を……」と持ちかける男がいた。ハリウッドスターの夢に見せられ、その怪しげな男の話に乗る者は後を断たない。男の名はもちろんキューブリックなどではなく……。
全編マルコヴィッチ無双で、マルコヴィッチファンには『……の穴』と並んでたまらない内容。オカマっぽい手つきや服装など、演技が暴走気味で素晴らしい。
スタンリー・キューブリックを詐称した詐欺師の話なのだが、顔は似てないしゲイだし映画の知識も適当で、本物とは全然似ていない。しかし不思議なことにキューブリックにこだわり続ける。普通に考えたら、別の監督でも良かろうし、使い分けてもいいんじゃないかと思うんだが、なぜか常にキューブリック。しかも、特別大それたことをするわけじゃないんだよね。酒をたかったり、タクシー代を踏み倒したりする時も必ずキューブリックを名乗り、そんなに吹聴して回ってたら逆に足がつくだろ……と思ってたら、その通りの展開になる。
酒にも溺れ情緒も不安定になり、やがては病院へ……。画面の中央にいるのは常にこの詐欺師だが、その内面は見えず、あるいは病気というのも詐病ではないかと思えて来る。実際のところ、どうだったのだろう? 答えは提示されない。入り乱れる虚実……。計算づくにしては馬鹿すぎるのだが、完全に病気とも思えない。
誰もがじきに騙されたことに気づくのだが、ペテンにかけられたことが恥ずかしいから、と誰も名乗り出ない。なに、その恥の文化……。
その「騙される側」にメインキャストがおらず被害者が次々と入れ替わるため、あまり状況の変化が現れない。自然と同じ内容の繰り返しになるので、短い割には少々かったるい。連作コントのような矢継ぎ早なテンポが欲しかったところ。
現実の奇抜な設定とマルコヴィッチのビジュアルでほぼ出オチになってしまった作品。惜しい。
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