"目くるめく謀略の果て"『さらば復讐の狼たちよ』


 中国映画!


 金で地位を買い、県令に就任するために走っていたマーの馬車が山賊に襲われる。襲ったのは当地名うての山賊”アバタのチャン”とその義兄弟たち。とっさに県令ではなくその部下に成り済ましたマーを捕まえたチャンは、自ら県令に成り済まして乗り込むことに。だが、その地は巨大な権力を持つ地主ホアンに牛耳られていた……。


 ジャッキーの『1911』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111208/1323340843)よりも時代的には後の話なのだが、地方が舞台ということで、印象的にはほぼ史劇。馬車を吹っ飛ばすハッタリ演出から幕を開け、アクション映画と見せかけて陰謀劇へとシフト。ウエスタンのような雰囲気も醸し出しつつ、役人に扮した山賊と街の有力者の謀略戦を描く。


 まだまだ混沌とした時代で、もともと赴任する県令も金で地位を買った詐欺師同然の人間だった、ということで、ひげはやした山賊がいっちょまえに成りすましても、違和感があるのかないのかわからない。ボスのチアン・ウェンはこないだ『関羽』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120119/1326956879)で曹操やったばかりだし、庶民派だけど貫禄ありな雰囲気がたっぷり。対する街の大金持ちはチョウ・ユンファ。この人はいつも「ああ、ユンファだな〜」という感じで、演技をしててもシリアスユンファかオモシロユンファなだけで、特段上手いとも思わないが、存在感だけはやたらとあるし、だからこそ何をしてくるかわからない雰囲気もある。この二人の騙し合いを軸に物語は進む。


 好きなタイプのストーリーなんだけど、出来事の後に感想戦をいちいちやるような会話シーンがかったるく、演出的にはちょっとしんどかったな〜。もう少し刈り込んでくれれば良かったんだが。ユンファとの対決を軸にしつつ、グォ・ヨウ演ずる詐欺師との関係も描いてるので、大作らしくかなり欲張った印象。


 役人に成りすました山賊と、二重生活を続ける詐欺師、替え玉を立てる富豪、と、登場人物は常に自分も他人も偽っていて、虚々実々の駆け引きを展開しながらも、時にその裏の心情がのぞく。それらすべてが明るみにでた後、悪は滅びたはずなのに結末には無常さが漂う。だが、そこにどこかほっとしたような寂しい空気がまとわりつくあたりが秀逸であった。