"思い出の貯金"『永遠の僕たち』(ネタバレ)
ガス・ヴァン・サント監督作。
両親を事故で失い、自らも三ヶ月の昏睡に陥っていたイーノック。目覚めた時から、彼は太平洋戦争で死んだ日本兵の幽霊ヒロシが見えるようになっていた。死の意味を考える彼は、見ず知らずの人の葬式に入り込むように。そこで彼は、脳腫瘍を患った少女、アナベルと出会う……。
物語が出会い以降、軌道に乗り始めた後、自転車、ボート、フェンシングなどが羅列されるシーンのシャレオツ感には少々引いた。時代背景がぼかされていて、こいつら携帯も持ってないだろ!という……。だが、その曖昧さが綺麗に作り込んだ映像とマッチしていて、ある意味甘い話を、静謐かつ美しい寓話に昇華するのに一役買っている。この綺麗さを軽さと取るか否かが評価の分かれ目かな。
まあほとんど彼女のために観た、というぐらいです、ミア・ワシコウスカちゃん。血色こそいいけど、繊細さと透明感、抱きしめたら折れてしまいそうな細身がこのアナベル役にハマってて、達観したような眼差しが胸を打つ。でもちっとも弱そうではなくて、儚さの中の逞しさのようなものがちゃんと表現されてる。
対してデニス・ホッパーの息子ことヘンリー・ホッパー君演ずる、主人公のイーノック。かつて死に瀕した経験を持ちながら、家族や彼女の死を受け入れられず全然達観していない。親父に似てなくもないけど、やたらとイケメンだね……。この年頃だと女子の方がずっと大人びてるのが普通じゃないかと思うが、今作でもその例に漏れず、癇癪を起こして当たりまくり……。でもこれが普通だろうなあ。残されてこの世に留まることの辛さ、死んだ先に行く場所は誰にもわからないけれども、それを「無」だと否定したがるのは、自分が残るこの世が有為だと思いたい、そして死なないで残って欲しいと言う寂しさからなので……。ダメはダメだが、そこは否定したくないところ。
そして、何か憎めないキャラでもあるんだよねえ。我がままな奴ではあるんだが、葬式で係員に見つかった時のトンズラっぷりとか、同級生を病院送りにしたエピソードとか、朝に小屋に踏み込まれて「救助隊が来たぞ!」とギャグを飛ばさずにはいられないとことか、同じくセップクジョークとか、医者の前で文字通り床に転がってだだをこねるとことか……。学校や社会に馴染めず、放っておいたらドロップアウトしてしまいそうな子なんだけど、こういう「秩序」に染まれない不謹慎さこそが若さなんだよねえ。まあ親父はいくつになっても不謹慎な顔してそんなキャラばっかりやってたけどね!
アナベルもまた病気になったことで、社会とは徐々に隔絶され、これからまだ「秩序」の中で生きていく人たちから、腫れ物を触るような扱いを受けてしまっている。そんな彼女と付き合えたのは、ある意味、彼のその無軌道さゆえでもあるのだよね。だからこそ、お姉さんが車がどうだの高校がどうだのと問い質すシーンは、ものすごく俗物的で滑稽で的外れだ。
そういう描写を積み重ねて、今作も『50/50』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111214/1323775719)と同じく男の子の映画として成立して行く。ミアちゃんの類い稀なる煌めきと自主性に物語が引っ張られているが、お話の骨子は少年の通過儀礼。処女じゃなくて童貞の喪失にはっきりスポットが当たってる辺りもそれを裏付けてる。その一方で、明確に成長譚とは位置付けられず、あくまで二人の出会いから別れまでで構成したところも品が良くていい。「少女が死んだことで、少年は大人になりました」みたいな話って、ちょっと引いちゃうんだよねえ。
加瀬亮のキャラクターが、少年の成長を促す友人役なわけだが、ここで「孤独感」と両立するために幽霊役に設定したことも成功していて、そこに存在はしているのだけれども頼り切ることもできない、いい塩梅に突き放したポジションになっててくれている。もちろん、幽霊自身のキャラクターも迷いを抱えていて、最後に装いも新たにミアちゃんと旅立つと語るシーンは、手紙を託したことで彼自身、特攻隊員としての無念の想いからやっと解放されたことの証なのだろう。
生々しいところも見せず、湿っぽくもなりすぎず、映画は少女の最後の願いをかなえてさらりと終わる。最後にフラッシュバックが起きるシーンで、「思い出の貯金」という言葉を思い出した。介護をしている人がよく使う言葉で、言葉が通じなくなったり、辛くなったりしても、それがあれば乗り越えられる、という。悲しいことも多いけれど、消えずに残るものだってある。
シネリーブル神戸で観たんですが、終わって街を歩くと、やっぱり神戸はミア・ワシコウスカが歩いててもおかしくないなあ。何せ『僕の彼女はサイボーグ』や『死神の精度』もここがロケ地ですから……。これがミナミなんかだと全然ダメだからね! まあワシコウスカがたこ焼き食う姿にも萌えますが……。
『私だけのハッピー・エンディング』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111227/1324990294)も合わせて、年末年始の難病もの映画をこれで三本クリアした。さすがに三本も観るとヘビーだ……。どれも悪い映画じゃないんだが、疲れてくる。さて、どれが一番良かったかと言うと、やはり『50/50』のJGLが最後に死んでしまうバージョンだな!(そんな版はありません)
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