"この命尽きるまで"『妖刀・斬首剣』

 チン・シウトン初監督作! 前から気になっていた作品だったが、りょんりょんさん(http://ameblo.jp/kusakaixa/)に借りて観た(多謝!)。


 少林寺金閣寺、中国と日本の武術を競う決闘の日が近づいていた。少林寺で修行する剣聖・チンワン。柳生新陰流正当継承者・宮本一郎。かつて先人の決闘の舞台となった聖剣荘で対決の日を待つ二人。だが、神聖なる決闘の影に、二つの国それぞれの思惑が絡み合い、恐るべき陰謀が進行していた……!


 これは素晴らしい! まず殺陣の軽妙さとスタイリッシュさが最高。忍者&柳生新陰流VS少林寺&中国剣法の対決なのだが、それぞれのアクションの性格付けが明白。チョイ・シウキョン演ずる柳生新陰流の伝承者・宮本一郎、時に二刀をも使いこなす達人なのだが、構えが実に堂に入っていて、手首の返しから身のこなしまで、日本の正統派のようだ。そこに香港映画らしいスピード感が加わるのだからたまらん。
 冒頭の忍者が登場して側転するシーンから「これは……!」と思ったが、その忍術の荒唐無稽さも茶化した風は一切なく、大真面目。数々の謎のアクションが大いなる見所。
 観ていて最初は「国辱映画の系譜?」と思ったのだが、アクションの作り方からして本邦の作品への敬意がヒシヒシと伝わってくる。何よりも、主人公の武士たる性格がきっちり描かれているのが素晴らしい。少々無頼っぽいが根は真面目、という風情の宮本一郎、日本を代表して将軍家の命を受けて以降、顔つきが徐々に険しくなっていく。中盤、ある事態が発覚してからは、武士道と忠義の狭間で揺れ動く複雑な心境を痛切な表情で表現! 師と語る新陰流の理も、最初は何か『フィスト・オブ・レジェンド』のビリー・チョウのごとく無茶なことを言い出すのかと思いきや(「武士道とは天皇のためにい忠義を尽くし、歴史上の罪人となるのも厭わないことだ」)、いわゆる柳生新陰流の教えとは全然違うけれども、これは『柳生一族の陰謀』の台詞ではないですか!
 着物のデザインと着こなしが変だったりするのは、まあご愛嬌。


 対する中国側も、剣聖と称される達人チンワンの、少林寺で修行しながらも出家せず強さにこだわる姿と、その「成れの果て」とも言うべき武術と名声に対する妄執が描かれる。ほのかな恋と、その先に待つ悲劇。強さを追い求めることは、こんなにも虚しいのか? 中国人の始末は中国人がつけ、日本人の始末は日本人がつける作劇も良いね。国辱映画かと思ったら、逆にリスペクトが溢れているよ。


 最後は、すべてを失い戦うことだけが残った武士と、その戦いに価値を見出せなくなった剣士がついに激突する。こんなにも悲しい戦いがあっただろうか……?
 いや〜、最初から最後まで堪能した。廉価版が発売されたらぜひ欲しいよ。観ててちょっと『ストレンヂア』なんかも思い出したが、これからの影響もあり?

スウォーズマン/剣士列伝 デジタル・リマスター [DVD]

スウォーズマン/剣士列伝 デジタル・リマスター [DVD]

柳生一族の陰謀 [DVD]

柳生一族の陰謀 [DVD]