”サン○ャイン牧場へようこそ!”『マンディンゴ』

マンディンゴ [DVD]

マンディンゴ [DVD]

 リチャード・フライシャー監督作品。カナザワ映画祭にて鑑賞。


 奴隷牧場を運営するマクスウェル一家の跡継ぎ、ハモンドは、父に結婚を迫られ、友人の妹ブランチを妻に娶る。だが、彼女はすでに処女ではなかった。牧場の奴隷娘を孕ませ続けて来たハモンドは、エレンという奴隷娘に逃避するように。やがて妊娠するエレン、嫉妬に狂うブランチ……。一方、純血種である黒人「マンディンゴ」の繁殖を夢見る老マクスウェルは、ミードという逞しい黒人奴隷を手に入れる。拳闘に、繁殖に、牧場の繁栄の象徴として活躍するミード。ハモンドも彼に良い待遇を与えるようになるのだが……。


 ラウレンティス製作らしい俗悪な話を堪能。しかし俗悪も集まれば真理となる……。農場主の白人親子を中心に、そこで繰り広げられる奴隷制度による搾取の構造を描く。もうこの出発点である奴隷制度からして最悪の代物なんだよな。父親は絵に描いたような差別的な人間で、息子のハロルドはそれに比べるとまだまともに見えないでもない。だが、黒人を奴隷としてつなぎ、家畜のように扱うことがそもそも圧倒的な非対称であり、その中で少々リベラルに振る舞っても、だからこそなおさら罪深いとしか言いようがない。


 中盤、大仰な音楽に乗って展開されるロマンスシーンは、信じられない程に醜悪だ。ハロルドの元に新妻として迎えられた少女ブランチもまた処女でなかったことを責められ、愛情を失い家庭内での地位を揺るがされる。子供を生むことができなければ、彼女のその家での存在価値はないのだ。


 そして自らは奴隷娘に手を付け続けながら、声高にブランチを非難するハモンドに対し、ブランチは一つの報復を仕掛ける。それはハモンドの大事にしている純血の黒人奴隷ミードを脅迫し、彼と関係を持つことだった。しかし、その男女両者の立場を入れ替え、形だけなぞった意趣返しは、その非対称性ゆえに女性である彼女に妊娠、出産というリスクを文字通り「孕ませる」こととなる。


 女性と黒人、あるいはその両方に対する、搾取の構造。登場する白人たち、特に農場主親子はあまりに傲慢かつ残虐で無知で、やることなすこと笑えない。彼らは「田舎者」であり、その息子は足に障害を抱えている。財産や土地しかアイデンティティがなく、教養も何もない。無知であるがゆえに自らを顧みることも他者を思いやることもない。ひそかに文字を覚え、祈りを捧げる奴隷たちの方がよほど知的に見える。


 古い映画だしテンポもゆっくりなんで、途中ちょっと眠かったんだけど、ミード役のケン・ノートンの筋肉を見た瞬間、目が覚めた(笑)。なんというパーフェクトボディ。純血種云々という設定よりも、完全に鍛えて作られた筋肉だけど。同じ黒人奴隷との賭け拳闘に駆り出され、見返りにいい食事を与えられ、純血種として交配する雌を与えられる。牧場の他の奴隷たちのねたみの対象にもなる。だが、その先に待っているものは結局は同じなのだ。


 最初から最後まで、がっちりおぞましい話を貫いた巨編。これは確かにうかつに観たらトラウマだ。とはいえ、現代人がこれに驚いているようではいかんよな。

トラウマ映画館

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