ゼルエルたんに捧ぐ。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』BD発売記念

 エヴァが好きだ、と言うと、だいたい聞かれるのが「綾波派? アスカ派?」……という質問だそうである。ふっ、そんなもんゼルエルに決まっておろう……。


http://ja.wikipedia.org/wiki/使徒_(新世紀エヴァンゲリオン)


 以下、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』のBD発売記念として、僕の思い出語りを、壮絶にネタバレしつつお送りします。


 そもそも僕がエヴァを初めて見たのは、テレビ放送当時。ただし、第19話からいきなり見るという状況であった。いやねえ、当時は別にそんなアニメ見てなかったし、真面目に見てたのは『ガンダムW』ぐらいか? なんかこのエヴァというのは面白いらしい……と聞いていたのだが、ふ〜んと聞き流し、その日までは興味もなかったのだ。見たのもまったくたまたまであったように思う。


 第19話「男の戦い」


 使徒、という奴を初めて見たインパクトは大きい。しかもそいつは強過ぎた。不気味なフェイスよりも、反物のような両腕が印象に残った。キャラの名前も知らん中で見ていたのだが、まず赤いエヴァをまったく問題にせず、あらゆる攻撃を弾き返した上で惨殺。自信過剰な小娘をそのプライドもろとも粉砕。続いて、青いエヴァの決死の自爆特攻をまともに受けるも、これまたまったくの無傷で、巨大な爆煙の中からその健在なる巨体を現す。


 tu,tueeeeeeee~!


 当時から怪獣映画が好きだったのだが、この異形の怪物の侵攻ぶりの容赦なさは凡百のそれを遥かに超える緊迫感を生み出し、ついに司令部に突入した時の恐怖感たるや! そこでようやく乱入し、間一髪で割り込んだ主役。だが、それさえも活動不能に追い込み、止めを刺しにかかる。
 最終的に暴走した初号機に補食されるのだが、そこまでは完全に勝っていたゼルエルの、圧倒的な強さの印象が強く残った。


 その後、翌週以降、最終回まで見たのだが、ここから打ち切りが決まって加速度的につまらなくなり、後にビデオで見た1〜18話までにも、このゼルエルを超えるインパクトはなかった。ただ、18話の次回予告にあった「最強の使徒」という文句だけがあった。
 そうかそうか〜、オレは最初に最強を見てしまったのか……。そりゃ他のインパクトも薄れるわけだ。後に公開された劇場版も、見たのは数年後という体たらく。僕の中でエヴァは、「ゼルエルが強かったアニメ」としてしか、長らく記憶されないことになる。


 そして2009年……。『序』を公開当時に見ず、DVD借りて見る。なんだ、この普通な面白さは……。このクオリティなら、次の……なんだっけ、『破』も見てみようかなあ、せっかくだし……。でも、なんか話はここから変わるらしいなあ……。予告見たら、参号機は出てるけどな……。
 そんな感じの緩いテンションだった僕だが、不思議と「ゼ」で始まるあいつのことは、一瞬も頭に浮かばなかった。「破からストーリーが変わる」「序は1〜6話だから、破は19話までは入らないだろう」、という先入観に、完全に僕の脳髄は侵されていたのだ。


 夏の暑い日、一人見に行った『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』。そこで、僕は彼と再会することになる。


 公開時の感想。
http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20090710/1247238531


 アスカ登場……続く使徒襲来……端折られてはいるものの、基本的にテレビ版通りの時系列で話は進んで行く。結構、先を予想しながら見るたちだが、マリ登場、キャラクターの新しい描写などに気を取られ、あまりそっちには頭が働いていなかった。参号機登場、まさかのアスカ退場……ショッキングな展開が続く。いや〜、トウジの野郎が生きながらえて、アスカがやられちゃったよ、なんかムカつくね……(笑)。この事態に切れるシンジ、ネルフ本部を破壊しようと脅しをかけるが、無慈悲なパパによって昏倒……あれ? この展開は……なんか覚えが……。
 そう、かつて初めて見たエヴァ、第19話は、このシーンから始まった。仲間を傷つけてしまったシンジの怒り、そしてエヴァに乗る事からのボイコット。うかつにも、この時点でオレはやっと気づいたのである。『序』のクライマックスが第6話であったのと同じく、これから来る『破』のクライマックスは、あの第19話なのだということに。
 ……ということは……!


 爆音とともに、そいつは今、再びオレの前に姿を現した。


 ゼルエル、キターーーーーーーーッ!


 繰り上がりでナンバーこそ第十使徒になり、ゼルエルと言う名も呼ばれないものの「最強の拒絶タイプか……!」という冬月先生の説明台詞だけでもう充分です。胴体がほぼ無くなり、腕だった反物が身体の主要部分を構成するようになり、より巨大化。劇場版ならではのド迫力の演出で、圧倒的な強さで進撃する姿は、まさにゼルエルだ。ああ……まさかあの日のインパクトを、今再び味わえるとは!


 ゼ〜ルエル! ゼ〜ルエル!


 第一幕、通常兵器を難なく弾き返し、ラミエルがもたもた破ろうとした装甲板も一撃で貫通。いや〜、さすがだ。まだまだゼルエルたんのワンマンショーは続くぜ。次は噛ませ犬のアスカを一蹴だ……? あ、そういえばアスカはもう脱落してるじゃん。う〜む、これは一幕減ってしまうのかな?
 ……と思ったら、マリが現れ、まさかの弐号機搭乗である。これには驚いた。う〜む、新キャラか……! 何やらこのキャラ、精神的に未熟なアスカに対して、戦闘のプロフェッショナルな雰囲気がバリバリなのである。これは、いかにゼルエルたんと言えど手強い相手になるかもしれん! 新キャラというのには、当然補正がかかっているものだしな……。


 しかし! 第二幕、明らかに闘い慣れた様子で猛攻をかけてくる弐号機だが、ゼルエルたんには全く通用しない! 火器も格闘も一切効かぬ! わはははははは、新キャラと言えど恐るるに足らず。噛ませ犬として散るが良いわ!
 が、なんとここでマリは奥の手、「ザ・ビースト」を起動させる。なに!? 暴走だと!? 脳裏を掠めるのは、かつて暴走初号機に倒された苦い記憶。こ、これはまずいんでは……!?


 しかし! これも全くの杞憂! 明らかに破壊力を増し、ATフィールドを破ってくる弐号機だが、本体には全く傷をつけられず! 強い! 強過ぎるゼルエルたん! 一瞬心配してしまったが、オレは信じていたぜ……。


 ゼ〜ルエル! ゼ〜ルエル!


 弐号機を叩きのめし、ワンマンショーは第三幕に突入する。ここで立ちはだかるのは、前戦で片腕を損傷したエヴァ零号機。はっはっは、代わりのいくらでもいる人形の特攻など、その覚悟において恐るるに足らず。ゼルエルたんの敵ではない。が、新劇場版の綾波レイは、その精神においてテレビ版とはまったく異質だ。並々ならぬ意志をもって仕掛けてくる。手にはN2爆雷が……と想像してたら、でかっ! N2ミサイルとか言ってるし! テレビでは缶詰ぐらいのサイズだったのが、両手でかつぐ馬鹿でかいミサイルに! こ、この破壊力は、いかにゼルエルたんと言えど侮れないのでは……!?


 しかし! そもそもATフィールドが突破出来ない! わはははははは、本体まで届かないようでは自爆など無意味! そのまま滅せよ!
 が、なんとここで粉砕したと思っていたマリ&弐号機が再度乱入。ATフィールドを破りにかかる! 顔見知りでさえないはずの二人だが、共通の目的を前に意気投合、まさかのコンビネーション。ちょっと待て! そんなのずるいぞう!? と、「七鍵守護神(ハーロイーン)」をダークシュナイダーとアーシェス・ネイにダブルで叩き込まれたΩアビゲイルのように叫んでしまった。フィールドが全て破られミサイルが本体に突きつけられる。閃光、そしてテレビ版に倍する巨大な爆炎……!


 おお……しかし……おお……!
 もうもうと立ちこめる黒煙の中から、やはりまったくの無傷で、ゼルエルたんはその姿を現す!


 tu,tueeeeeeee~!


 ゼ〜ルエル! ゼ〜ルエル! ゼ〜ルエル! ゼ〜ルエル!


 もうオレ様のテンションは最高潮。大ゼルエルコール。あの日の興奮を再び味わえた。なんと素晴らしい。ありがとうエヴァ、ありがとう庵野! 我らが最強は、やっぱり最強だった!


 直後、ゼルエルたんは黒こげの零号機を補食! まさかの女体化! 最高潮のテンションが、さらにまた限界を突破したよ。
 説明台詞で触れられた通り、零号機を吸収することによってその信号パターンを獲得し、自爆の危険性なしにセントラルドグマへと侵入できる……。もちろん、それも重要なのだが、他にも色んな意味があるよね。まずテレビ版で初号機に食われたことに対する意趣返し。もう一つは、この丸ごと食らうという行為は、ヒロインに対する陵辱に近いものがあるということ。綾波を「レイプ」した上で「所有」し、「人質」としている。言わば主役であるシンジに対する「ふへへへへ、おまえの大事な女はオレがいただいたぜ」という悪辣極まりないメッセージでもあるのだ。
 いや〜かつては最強ではあるものの、その侵攻ぶりはどこか愚直であったのだが、十数年の時を経て甦ったゼルエルたんは、強さの上に悪さとずる賢さも併せ持ってしまった! 圧倒的! 女体を揺らして司令部に突入した時の絶望感たるや……! まさに異形!


 ゼ〜ルエル! ゼ〜ルエル!


 最終幕。ようやくここで主役・初号機乱入。ふっふっふ、しかし暴走はできまい。何せオレの中には、お前の大事な大事な綾波がいるんだからなああああああーっ! はーっはっはっはっは! 圧倒的な破壊力で、初号機を打ちのめすゼルエルたん! 勝利は目前!


 が、しかし!


綾波を、返せっ!」


 ……へ? あ、あれっ!? し、しまったあああああああああーっ!
 なんと、人質作戦がまさかの裏目! 悪辣ゼルエルたんの行為が、主役の怒りに火をつけた! プッツーン! オラオラオラオラオラオラ! 切れてパワーアップした初号機の鬼のような攻撃に引き裂かれるゼルエルたん……! 惜しくもリベンジならず……!


 うむむむむむむ、今回の敗因はまさに「てめーはオレ(シンジ)を怒らせた」という、たった一つのシンプルな答えだったな……。
 圧倒的な破壊力に加え、卑怯極まりない人質作戦、頭脳的なプレーを見せたゼルエルたんであったが、そのワルっぷりが逆に主人公の怒りを買うという事態を呼んでしまい、粉砕の憂き目にあった。残念!
 惜しかったが、テレビ一話分の敵ではなく、劇場版第二作のクライマックスを飾るのはやはり「最強」ゼルエルしかなかったし、その進化した戦闘スタイルと強さ、悪辣さによって主役チームを徹底的に追い込んだ挙句に、精神的成長を逆に促してしまう……多くの意味でまさに「悪役」であったと言えよう。


 今回も敗北したが、やっぱり一番印象に残ったオレ的MVPは、この大役を果たしたキミだ、ゼルエルたん! 感動をありがとう!

ROBOT魂[SIDE EVA] エヴァンゲリオン初号機

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