『乱反射』貫井徳郎

乱反射

乱反射

 幼い息子の死。一見、事故に思えたそれは、人災の連鎖によって起こされたものだった。ゴミ捨て、犬の糞……ささやかなモラル違反の積み重ねが人の死を引き起こす様を描く。


 序盤は説明的な描写に辟易したものの、実際に幼児が死に至る場面以降、そこまでの描写の周到さが一気に生きてくる。
 モラルハザードバタフライ効果とでも呼ぶべき流れ、本来なら偶然としてしか片付けられないような事象を関連づけ、現代社会人のモラルを問う。


 ……んだけど、やっぱり「書きたいことありき」の社会派小説なんて、ドキュメンタリーの足下にも及ばない。問いつめられた殺人者達が一様に逆切れして自己正当化を計るところなんて面白かったのだが、「豊かな日本をオレが作った」と吠える爺さんはさすがにやりすぎではないか。「罪悪感」なんて欠片も感じない人間が出て来ても良かったろうし、作中で言われるように実際に謝る人間もいて良かったのではないか。綺麗な構成を希求すればするほど嘘くさくなる。被害者が「幼児」であることも含めてだ。まあでも、このわかりやすさに価値があるのかなあ。