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”家に帰ろう”『一念無明』


『一念無明 / MAD WORLD [一念無明]』予告編 Trailer

 大阪アジアン映画祭2017、七本目!

 寝たきりの母を一人看病してきた阿東。父は家を出て、弟はアメリカに移住していた。そんな折、悲劇は起きる……。母の死によって鬱病を患った阿東は、精神病院に送り込まれる。退院後の彼を父の大海は引き取るのだが……。

 エリック・ツァンが主演だが、直前に来日していたためにもしかして映画祭に電撃的に来ないかと期待したが、やっぱり来なかった! 白鵬に会っていた!

 エリック・ツァン父が、鬱病から退院してきた息子ショーン・ユーを家に引き取る……んだけど、超狭い雑居ビルで、部屋自体も日本で言う「ワンルーム」にも相当しないぐらい狭い! 二段ベッドの上を息子に割り当て!
 とりあえず退院はしてきたわけだが、完治するまでは何年もかかるかもしれないし、薬を飲み続ける必要がある。本人にも焦りはあって、就職を画策するが上手くいかない。鬱になった原因は、母親の介護疲れで、その果ての「事故死」と裁判……わああ、超重苦しいぞ! で、父エリック・ツァンはその介護の時点で離婚してトンズラした過去が……。

 父子のすれ違い、貧困層鬱病患者を背負いこむとどうなるか、周囲の偏見などなど、二重三重にハンデがのしかかり、まったく出口が見えない。また回想に登場する死んだ母親の、同じく鬱プラス呆けの重篤さが、あるいは自分の未来そのものではないか、と恐れる息子……。この母親役の人も名演技で、かなり怖いです。
 言葉少なく、鬱の症状の辛さをじわじわと描き、安直な希望を与えない。なのに、ちょっと躁になったら薬をやめてしまうショーン・ユー……。
 基礎知識としてとりあえずエッセイコミック「ツレがウツになりまして」をオススメしたいところなのだが、結局のところ「薬やめる」→「悪化」→「やっぱり飲まないとダメなんだ……」というのは、知識として知ってるだけではだめで、一回経験しないとあかんねんよな……。

 介護問題で揉めて別れた元婚約者から連絡が来て、「よりを戻せるかも!」とウキウキしたが、彼女は別れた痛手で宗教にハマっている、という展開も良かったですね! 「わたしは……彼が……憎い! でも……許します!」と涙ながらにスピーチする姿に滅多打ちにされるショーン・ユー。全然許されてないよ!

 病気が病気だけに、こうすれば解決、なんて突破口は絶対にない。その重さを若手の監督・脚本コンビが真摯に描き続けた一本で、それを三人の名優が支える……。ラストの余韻も、その未来の見えなさを含めて、大石圭言う所の「絶望的なハッピーエンド」を想起させる。行く手は暗闇しかないが、今、彼らはそこを歩いて行く決意を固めたのだ。

 終盤になって映画祭も盛り上がって参りました。いよいよ最終日に続く。