"書類仕事が多すぎる"『エンド・オブ・ホワイトハウス』


 ジェラルド・バトラー主演!


 アメリカ全土に激震……! ホワイトハウス独立記念日に、韓国首相の護衛を装ったテロリストに占拠される。韓国首相ら要人が次々と処刑される中、アメリカ大統領も人質に取られてしまう。韓国からの米軍の撤退を要求するテロリストの首魁の真の狙いとは? 打つ手なしの米政府だが、一人の男が立ち上がる。かつて、大統領を守るために大統領夫人を死なせてしまった過去を持つ、元シークレットサービス、マイク・バニングであった……。


 アーロン・エッカートがアメリカ大統領! さすがに若すぎない? さらに大統領夫人がアシュレイ・ジャッドで……と思っていたら、この夫人が開始5分でペチャンコに! 大統領を助けるために彼女を見殺しにした元特殊部隊、この時シークレット・サービスのジェラルド・バトラー、懲罰ではないけど干されるような格好で財務省に移動し、デスクワークの毎日。カウンセリング受けるような状況からは何とか脱したけれど、医者やってるラダ・ミッチェル嫁にはまだ心配されている……。


 夜に嫁と映画デートに行く約束して、仕事に行ったジェラルド、「今日は韓国から首相が来るから大変だ」という以前のシークレット・サービス仲間たちに「頑張れ、気をつけろよ」と言いつつ、自分も現役復帰したい気持ちでいっぱい。


 しかし、さて会談というところで、ワシントン上空に未確認機が……。気づくの遅いな! しかもこの輸送機に戦闘機が撃墜され、さらに街中に大機銃掃射が降りかかる。ホワイトハウスも散々弾丸の雨を浴び、周辺の民間人も血みどろに! 街中からもトラックやら何やらで大量の人員が現れ、自爆テロで柵を破壊! デスクワークしてたジェラルドさんも異常に気づいてホワイトハウスを目指す……。
 未確認機登場の一報を受けた大統領は、韓国首相と共にささっと地下のシェルターに隠れていたのだが、なんと韓国首相のSPは全員がテロリストの一味であった……。


 輸送機に落とされた米軍機、ホワイトハウス周辺の警備員、そして肝心のシークレット・サービス……。


 弱すぎる……。


 ホワイトハウスからシークレット・サービスが飛び出して全員拳銃で反撃するも、圧倒的な火力であっという間に蜂の巣に! 飛び出しては撃たれるの繰り返しで、どんどん減って行く! ジェラルドが駆けつけ、かつての仲間たちと共にホワイトハウス内に撤退するも……気づいたら自分一人!


 ここからは『ダイ・ハード』フォロワー状態で孤軍奮闘になるジェラルドさん。しかしホワイトハウスの警備も弱すぎたが、テロリスト軍団も手際がいい。敵や人質の命はもちろんだが、自分たちの命も全然惜しまない。ボスの韓国人も、なかなかサドっぽくて「いい性格」をしている感じが出ていて面白い。外にいるモーガン・フリーマン大統領代行らも、交渉でいたぶられまくる!
 そんな自爆も虐殺も辞さないテロリストたちに対して、たった一人のジェラルド・バトラーが大反撃を開始する。相手が手段を選ばないので、こっちも拷問ぐらいOKだろ!ということで、二人捕まえた片割れの喉をいきなりかっ斬り、もう一人の太ももにブスーッ!


 いやあひどい。敵のやってることは大虐殺なのでこっちも拷問ぐらいOK! ハリウッド映画における、アメリカ様の傲慢ぶりも今が頂点という感じで、スパイものや対テロものを観てても、貧困国の国民や、自爆ぐらいしか対抗手段のないテロリストをハイテクと物量でいじめまくってるようにしか見えないのだが、今回は一般市民から大統領まで滅多打ちにされるのが逆に壮快。アメリカの権威が徹底的に踏みにじられる。穴だらけになって舞い落ちる米国旗……。だからこそたった一人の反撃も生きるのだ。
 韓国も、首相のSPが全員テロリストになってる、というザルにも程がある状況で怒られそうなんだけど、ごめん、アメリカも全然ダメだから許して!という政治的配慮なのだろうか……。


 『ザ・ファイター』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110331/1301579597)で主人公のオカンであったメリッサ・レオが、今回は国務長官ということで大出世なのだが、映画が悪かった……。核爆弾を自爆させる「ケルベロスコード」を持っているため、テロリストのボスにボコボコに殴られ蹴られまくる! 『ザ・ファイター』でマーク・ウォールバーグに体重差ある試合をやらせ「おまえがやってみろよ!」と言われていたが、その報いを受けるようなしばかれっぷりでしたね。ここでもいい感じにサディストなボスであった。


 ジェラルド・バトラー以外の米国側キャラは気持ちいいぐらいに弱いか頼りないかに設定されており、たった一人現場にいる彼にとっては、他のキャラは「物分りがいいか・悪いか」ぐらいで存在価値が決まってしまう。現場の人、発言力強すぎるよ!
 『ゲーマー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101216/1292466047)とか『完全なる報復』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110204/1296791163)とか観たけど、今回のジェラルド・バトラーは良かったなあ。適当にユーモアもあって、子供にも女にも男にも頼られるナイスガイ。おまけに強すぎる! 濃い割に品もあるし、さすがの存在感ですね。じわじわと敵のボスともライバル関係が強まる。


 敵のボスはリック・ユーンという俳優がやっていて、出身は北朝鮮という設定になってるけど、韓国系のアメリカ人ですね。テコンドーも使えるそうで……って、よく見たら『ニンジャ・アサシン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100330/1269948790)のケイン・コスギ役、じゃなくて「武」役の奴じゃねえかよ! 強いわけだよ、こりゃ!
 北朝鮮出身で、そこで両親を失い、中東に行って韓国に武器を横流し、そして最終目標は……。こちらも当初思ったよりは政治色が薄い設定であった。「おまえたちアメリカも(北朝鮮と同じ)飢餓と貧困を味わえ」という台詞も、いかにも悪役っぽくて良かったですね。


 タイムリミットまであとわずか、というところで、全然役に立ってない外の人たちに業を煮やしたジェラルドさん、「俺に時間を寄越せ」と迫り、仕方ないからモーガン・フリーマンも「30分だけやる」と告げる……。腹に傷を負って、さすがにボロボロになってきたジェラルド、ここで嫁に電話。病院は怪我人でてんてこ舞い、旦那は全然電話に出ないので心配していたラダ・ミッチェル嫁、ようやく安堵。もちろん、ホワイトハウスの銃撃真っ只中にいることなんて知る由もない。


「ごめん、ちょっと仕事が忙しくてさ」


と、そんなことはお首にも出さないジェラルドさん。


「帰ってくるわよね?」


 ここで一瞬、間が空く。


「……もちろん帰るよ。約束通りデートしないとな」


「まだ遅くなりそう? 忙しいの?」


「ああ……書類が多くってね」


 うわーっ、これだよこれ! こういう時の電話って、こうやってサラッと言うのがいいんだよ! あくまでほんとのことは言わず、心配なんてかけないように振る舞うの。『海猿』とかみたいに時間止めて延々やったらダメなんだよ!


 豪快なとこはとことん豪快に、ノリで突っ走った一本。娯楽に徹して、数々の突っ込みどころも勢いでごまかす! 半端に気を使ったところがなく、どこの国のどんな地位の人も老若男女問わずひどい目にあうあたりが素晴らしいですね。子供が出てくるあたりが玉に傷……と思ってたら、意外とささっとおしまいにしてくれたのもナイス! 


 全然期待せずに行ったら、思いもかけない拾い物であったなあ。オススメですよ! ちなみに今作のジェラルド・バトラーはナンバーワン・シークレットサービスだけど、夏公開の『ホワイトハウス・ダウン』の主役チャニング・テイタムは、シークレットサービス試験に落ちこぼれた男だそうで、こちらもプロットの違いが気になるね!

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