”ブレーカーを落とせ”『ジオストーム』


映画『ジオストーム』日本語吹替版予告【HD】2018年1月19日(金)公開

 ディーン・デヴリン監督・脚本作。

 世界各国が団結して作り上げた気象ステーションにより、世界で頻発した異常気象は根絶された。だが、運用開始から二年、今度はステーションの異常によって巨大な雹や竜巻が発生する。ステーションの生みの親でありながら運用から外されていたジェイクは、弟のマックスの頼みで宇宙へと上がるのだが……。

 エメリッヒみたいな企画だなあ、と思ったら、やつとコンビ組んでるデヴリンの監督作ということで、見事に同じ匂いがしますよ。
 前作『インデペンデンス・デイ リサージェンス』は、一作目を最新映画のルックにアップデートしようとして、どうも勘所を外しまくってしまった映画、という感じであったが、さて本作は……?

chateaudif.hatenadiary.com

 もうアメリカ万歳のナショナリズムは古い! これからは世界で手を取り合いテクノロジーを共有し合うのだ! というのは今作とは全然違う高尚なSF映画『メッセージ』でも語られたテーゼで、それこそ『リサージェンス』でも言ってたことなのだな。

chateaudif.hatenadiary.com

 今作の天候操作は、まあ完全にオーバーテクノロジーだが、宇宙人由来ではありません。開発者はジェラルド・バトラーで、これを作ったおかげで「災害を倒した男」みたいなイメージで世界中で知られている。が、災害を止めるために独断でシステムを操作したことでクビになり、代わりに弟のジム・スタージェスが管理責任者に収まってしまう。
 しかし数年後、謎の誤動作によってアフガニスタンが凍りつき、香港が加熱されてガス爆発……。原因究明のために弟が兄を再び呼び戻す。

 ジム・スタージェスの上に国務長官がいるのだが、これのキャストがエド・ハリスなので、あっ、黒幕だっ!と思ってしまう超お約束感が最高ですね。しかしこの後に実は大統領の方が怪しい!ということになって、こちらはアンディ・ガルシアなので、どっちが本当の悪役なのか、ということになると、ちょっと序盤では判断がつかないのが、またいいですね。

 さて、衛星の不具合を調べるぜ、ということで一人でシャトルに乗って宇宙へ向かうジェラルド・バトラー。いや、ガンダムなんかじゃ有力者のコロニー間の行き来とかでよく見る絵面だが、ありゃあ平板なアニメだからなんとなく流せるけど、実写で見たら無駄遣い感半端ねえな……。
 着いた先のステーションでは各国の叡智が揃って勤務していて、100人ぐらいいるのかな……? 捜査に協力してくれるスタッフが呼び出され、チーフ、ロボット担当、気象担当、コンピュータ担当……そのコンピュータの奴が怪しいに決まってるよ!
 ステーション内を周り、チーフと相談しつつ捜査するジェラルド・バトラーだが、これをやるのが彼である理由がいまいちわからない。今いる人間でも十分捜査できそうなんだが……。もちろん、彼が事情に通じているから、話を円滑に進められるという進行上の利点はあるわけだが。

 予告編でも紹介された災害のビジュアルもわかりやすくて、一発で危険だとわかるんだが、お話の進行もすべてわかりやすいアクションと誰にでもわかる単語で構成され、一瞬の淀みもなく進行して行く。さすがはディーン・デヴリン、ある意味……あくまである意味……完璧な脚本だと言っても過言ではない。
 ダニエル・ウーが事件の真相に迫るが、彼のオフィスに銃を持った黒服の男たちが潜入してくるあたりの単純さ。結局車にはねられて殺されたダニウーの末期の言葉「ぜ、ゼウス……!」を部下のハッカーに「機密ファイルをゼウスで検索しろ!」と言っちゃうスタージェス弟。ほんとにそれだけで出てきてしまうファイル……突っ込んでる間にさっさと話が進んでしまう圧倒的なスピード感。

 ステーション外に出るとき以外は、普通に作業服で歩き回れるステーション内の描写もハイテクとレトロの同居っぷりが笑えて、各自スマホみたいな端末を持っててどこからでもアクセスできるようになっている。結局、アクセス権がなくなって繋がらなくなるあたりも超わかりやすい。だから、コンピュータ担当が怪しいに決まってるでしょ!
 誤作動起こしまくる衛星に、ついにジェラルド・バトラーが「ウイルスに感染している!」と真相にたどり着くが、この「ウイルス」という言葉の便利さもすごいな……。それこそ『インデペンデンス・デイ』と全く使い方が変わってないよ!
 そして正体を現したコンピュータ野郎をパンチで倒し、「前から怪しいと思っていた」というバトラー兄……。

 地上でもエド・ハリスが正体を現し、次なる災害が大統領が演説するスタジアムを襲う! 雷がバンバン落ちるスタジアムから、スタージェス弟は規則を破ってこっそり付き合っているシークレットサービスの女ことアビー・コーニッシュを無理やり巻き込み、大統領をタクシーで誘拐して逃げ出すという超展開。
 気象パニックもののはずが、なぜかカーチェイスと銃撃戦になる。落ちてくる雷から車で逃げるのは、冷静に考えたら絶対に無理だと思うのだが、誰も冷静にはならない。シークレットサービスと言えば、『エンド・オブ……』シリーズで他ならぬジェラルド・バトラーが、大統領を襲う敵を無敵の強さで惨殺するのが定番だが、当のバトラー兄は宇宙なので、今回はアビー・コーニッシュがきっちりとその役を担い、運転しながらの左手だけの水平射撃で追跡者を蜂の巣にする。シークレット・サービスはこんな戦闘力過剰じゃないだろ、と思うのだが、そこはまあ気にしないのである。

chateaudif.hatenadiary.com
chateaudif.hatenadiary.com

 地上ではスタージェス弟が兄譲りのパンチでエド・ハリスを成敗する。黒幕が「私は外敵を始末したんだ! 何が世界平和だ! あの強いアメリカを取り戻すんだ!」とうそぶくあたり、『リサージェンス』でやり損ねた、ID4のセルフアンチテーゼをここでやったのだろうか?

 災害はペースアップし、このままじゃ連鎖して巨大嵐「ジオストーム」が起きる!と言われるのだが、それも正確な開始時間が巨大モニターに馬鹿でかい数字でカウントダウンされるあたりが最高ですね。

 映画の冒頭は、地上にいるジェラルド・バトラー娘のモノローグで始まるのだが、この終盤に来てジェラルド・バトラーが脱出用のシャトルに乗らず、「誰かが残ってシステムを手動で再起動しなければならない」とチーフに告げる。なるほどあの娘のモノローグは、彼が死んでしまうという展開への「ミスリード」だったのだな……。
 ここから地上で弟がエド・ハリスをやっつけて大統領を救うまで、ただじっと待ってたりするあたりが間抜けだが、やっとこさ大統領の持ってる再起動コードが送信される。が、ステーションは自爆プログラムが走っており(そんなもん組み込むなよ……)、コードを入力しようとしたら司令室が吹っ飛ぶタイミングの悪さ。しようがないから、中枢まで自力で行って電源も手動で入れ直すことに。ここで「再起動しないとウイルスは消えない」と言ってるが、再起動しただけで消えるというのも謎だな……。
 通路も塞がったので、一回宇宙空間に出ないと行けないというのもすごいお約束感があるのだが、行った先で鍵が開かず(ここ、単にドアの暗証番号だったのだが、大統領のコードと混同してしまってちょっとわかりにくかった)、万事休す。……かと思われたが、先に脱出したはずのチーフが、ドヤ顔の準備万端で背後から姿を現わすのにもびっくりですね。
 やっとこさ中にたどり着いて、さあ再起動だ!というシーン、ヒゲの濃いいかつい顔をしたジェラルド・バトラーが大真面目にでっかいブレーカーをガッチャンと落とす絵面のむやみやたらな説得力よ……。

 カウントダウンが残り数秒で止まり大歓声の地上、しかしバトラー兄の運命は……。いや、もちろん助かるし、その展開も相当強引なんだけど、まあベッソンの『ロックアウト』よりは相当マシだったから、良しとしようじゃないか。そして、再び蘇る兄弟の絆!

chateaudif.hatenadiary.com

 90年代脳の脚本職人の手練れっぷりの粋を凝らした、わかりやすさ満点の新しくも懐かしいバカ大作で、なかなか堪能させられた。個人的には好きだが、まあ今は2018年なので、全米大コケもやむなしの珍作になってしまったのは仕方がない。これに懲りず、またさらなる全部のせバカ映画を作り続けて欲しい。