”苦難の時代の幕開けに”『新少林寺』


 ジャッキーの98本目の出演作!


 清朝崩壊の翌年。各地で動乱の起きる中、候杰将軍は宿敵の軍勢を打ち負かし、逃げ込んだ先の少林寺にまで踏み込み射殺する。僧たちの諭しも意に介さず暴虐を働き続ける候杰は、海外列強の進出を良しとせずさらなる勢力の拡大を目指し、ついに義兄弟である将軍の暗殺を企てる。だが、計画を実行に移すはずの酒席で意外な事態が……!


 序盤、アンディ・ラウが将軍、ニコラス・ツェーがその部下、ということで、猜疑心やジェラシーが乱れ飛ぶ複雑な関係が描かれる。出て来た時から悪役演技な二人なのだが、義理人情やら中国全体のことで意見が対立し、お互いに単純に悪いだけのキャラクターではないのだよね。この細かいところを見せる演技がさすが、という感じ。後半敵味方に分かれ、アンディ・ラウが「南無阿弥陀仏(ア〜ミ〜タ〜ホ〜)……」言い出してからはいまいちそこらへんの機微が見えなくなってしまったが……。


 『1911』の翌年が舞台、ということでかなりシリアスなストーリーではあるのだが、そんな中でもカンフーテイストは全開。アンディとニコラス・ツェーがかなり動けるのはもちろんなのだが、少林寺の僧役で登場のウー・ジンがすごくいい役で、朗らかな笑顔と共に切れ切れのアクションを見せる! また殺人マシンみたいな役だったらどうしようか、と思ってたが、『イップ・マン』の弟子の人(名前覚えてない。敢えて調べない)を優しく諭す兄貴分キャラで大活躍。その『イップ・マン』の弟子の人も頑張っていたし、ちょこちょこ出て来る小坊主たちも戦乱に巻き込まれて立派な戦力として活躍してしまうあたり、やっぱり少林寺ってガチだわ〜と感じ入った次第……。


 権力と子供を失いファン・ビンビン嫁に逃げられたアンディ・ラウの改心、の辺りはいささか雑と言うか、改心するまでで一本撮るぐらいに、ほんとは描き込まないといかんのだろうが、そこらへんはまあいつものことなのでもう目をつぶろう。それに加えて裏切り者となったニコラス・ツェーの安心の悪役っぷりがまたいい感じに浅い。アンディが襲われてるシーンで自分は安全地帯にいてニヤニヤ笑いながら脚組んでるとことか最高! 事態が長引いてると見るや、直属の用心棒に顎をしゃくって出撃命令! 自ら将軍になった後は、突然ヒゲを生やして服の前ボタンを開けて……どこの不良や!という突っ込みどころ満載のスタイルを披露。「俺の強さが……」とか言ってるが、すぐ銃持ち出して、弱いのに粋がってる人の典型。悪役観るのは『PROMISE』以来だったが、性格悪い役ははまるわ〜。まあ浅くて幼稚なイメージがあるからこその、終盤の展開とも言えるし。
 その用心棒役は、まさか出てると思わなかったからビックリしたぜホン・ヤンヤンさん。『ワンチャイ』前後のジェット・リー作品などでも、清朝絡みの悪役はちょこちょこやってたと思うが、今回も弁髪の暗殺者役。もうこの人もそろそろ50だと思うが、相変わらず動き切れまくりだぜ!


 そして特別出演のジャッキーが色々と美味しいところを持って行くというパターン。カンフーできないと言いつつ、料理のテクと同じだって言われて当然のようにやってしまうあたり、いつものそこらへんの物を使うアクションのバリエーションって感じで良いですな〜。 少林寺の厨房、と言えば『食神』という傑作もあったし……。


 例によって重厚なのかなんなのかよくわからない話ではあったが、仏教精神で改心にこだわった作劇やクライマックスを経てこれから激動の時代を迎えるのだという過酷さも伝わり、やや娯楽性とマッチしない感覚こそあるものの、大作感溢るる作品である。どれほど人心が荒廃し、世が過酷になろうとも仏教と少林寺の精神は永遠に生き続けるのだ。


 しかし、初日に見たけど来てるのは年配の人ばっかりだったな〜。 もっと若者に観て欲しいね〜。

食神 [DVD]

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PROMISE (無極) [DVD]

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