”怖い人は身近にいる?”『ルームメイト』


 今邑彩原作!


 交通事故にあい、昏睡状態で入院した春海は、病院で知り合った麗子と意気投合。再就職に向けてルームシェアをすることに。まるで昔からの親友のように麗子のことを思っていた春海だが、二人の生活に、小さな影が落ち始める。麗子の奇妙な言動、時折口にのぼる「マリ」という名……。やがて、殺人が……。


 今年、病気で孤独死を遂げたミステリ作家今邑彩の原作を映画化。一時期、新本格を追いかけていた時代があって、その頃に氏の小説はだいたい読んだ。印象深いのは『鋏の記憶』や『蛇神』シリーズなど。今作に関しては、もう内容は覚えていないが……。
 それを『Another』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120816/1345083141)を撮った古澤健監督が映画化ということで、漫画かミステリ原作の映画化専門のようになっておるな。


 序盤から仕掛けの施された構成は、まあ洋物サスペンスでも良く見かける類のものなのだが、その基本ラインを逆手に取ってひねってくるのが、マンネリにならないよう、他とネタがかぶってるようでかぶってないものに仕上げようと腐心してきた新本格ミステリならではで、いかにも「らしい」二段落ちのひねりが用意されている。
 スプラッタシーンで微笑し、絵のルックの貧相さに苦笑したあたりまではまったく『Another』と同じ印象だったのだが、今作は大仰な絵面のムードよりも画面上のトリック、ロジックで見せるものだっただけに、タイトにまとめる手腕が光ったのではないか。小品だが、編集も小気味良くまとまっていて(あの画面分割はいったい……)、先日、録画してお料理しながら眺めた『今日、恋をはじめます』同様に、テレビで見る分には充分面白かろう。
 二大ヒロインもそれぞれ好演しているし、深キョンの安手の悪女感も映画全体の安さ、軽さの中で絶妙なバランス感を発揮している。いや、ほんとに魅力を感じる絵面がなくて、この安さはもうどうしようもないのかもしれないと思ったが、素材によってはハマるなあ。
 『アベックパンチ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110728/1311863590)の、どが付くローカルスポーツ感と同じく、新本格の普通レベルの作品の、筋とトリックが成立してハラハラして最後にビックリすればそれでいいんだよ!ということが目的の、いい意味でも悪い意味でも軽い感覚を再現するのにぴったりというか……。『Another』は原作が分厚すぎで変に重厚ぶったところが合わなかったと思うので、大作感なきサスペンスに今後もチャレンジしてもらいたいものである。


 まあほんとに全然深みとかない話で、オチがついた後の後日談で、なんとも言いようのない気の抜けたような薄味のさわやかさで締められるわけだが、ここらへんも「ああ新本格読んだなあ」という昔懐かしの感覚を思い出したのでありました。


 しかしこれを観てると、同じく原作者が亡くなり、監督までも亡くなっている『ハサミ男』も今こそ再評価されるべき、と思ったり……。

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