"弟子入りに失敗?"『ザ・マスター』


 ポール・トーマス・アンダーソン監督作!


 第二次大戦を戦ったフレディだが、戦後、アルコール依存症となり、自分の作ったカクテルにはまって抜け出せなくなっていた。何をしても長続きしない彼だが、ある時潜り込んだ船上パーティで、「ザ・コーズ」という団体で「マスター」と呼ばれる男と出会う。独自の哲学を持つ思想団体の長であるマスターはフレディを側に置き、カウンセリングを施すようになる。信頼されたフレディは、団体を守るため暴力に手を染めるのだが……。


 天才の方のポール・アンダーソンと言われる、略してPTAの新作映画。実はPTAの映画、まったく食わず嫌いしておって、一本も見たことがなかったのだよね。『ブギーナイツ』『マグノリア』あたりで名前知ったけど、まず観る機会のあった『マグノリア』が、長い、トム・クルーズ、あれが降ってくるというオチを割られた、という三重苦だったのでスルー。後の映画も予告見てどれも興味ゼロ、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』はちょっと観たかったけどな〜。


 そんなわけで、PTA初体験。サイエントロジーがネタになってるという噂を聞いたもんだから、またトム・クルーズか、と思ったが、主演はホアキン・フェニックスです。実際のこの人、目つきもよくないし、死んだ兄ちゃんみたいなイケメンでもないし、あまりお友達になりたくない顔をしているよね。ドッキリ(『容疑者ホアキン・フェニックス』)なんか作って、性格も良くなさそうだ。
 戦地にいる時から、なんかビーチでぽつねんと座っていたりして、寂しげなホアキン。砂浜で他の兵隊さんが砂で作った女体に乗っかってしまうあたり、ウケを狙ってるのか本気かわからんのだけど、ちょっと引かれてしまうという悲しさ! まあ全編こんな感じで、色々と彼自身良かれと思ったり、面白いと思ってやったことが、周囲の人には全然いい結果を生まないのである。お酒作ってあげたらおじいちゃんが死にそうになるし、マスターに因縁つけた奴に「わかるように教える」ところでも、なんでもやりすぎてしまう。
 いや、観てる間は、こういう人と関わり合いになりたくないなあ、と思っていたのだが、映画が終わって時間と距離を置いて振り返っていると、じわじわとかわいく思えてくるダメさ。ただ、これは「思い出は常に美しい」「失くすともったいなくなる」という心理に過ぎんのでしょうね。


 そんなホアキンを弟子にしたザ・マスターことフィリップ・シーモア・ホフマンですが、彼のことをいちいち持て余しつつも、気になって気になってしようがない。手塚治虫の『ブッダ』で、ブッダもダメ弟子のアナンダを一番側に置いたり、タッタの暴走を気にかけたりしていたのと似ていますね。ほいほいと催眠術にかかってくれたり、本読んだら勝手に感動してくれる人よりも、こういうすんなりいかない子に執着しちゃう、これを教化できんで宗教やってられるか! しかしながら暴走ホアキンはマスター大好きにも関わらずいまいち感化されてくれず、タッタを失ったブッダのようにホフマン教組は自らの限界に突き当たるのである。終盤、二人は本のことでほぼ同じタイミングでブチ切れるんだけど、お互いにそのことは知らない、という寂しきすれ違い! 通じ合うものが多かったゆえに、同化もできない、という関係性であったのかな。


 元カノに会いに行って、彼女のお母さんにしか会えなかったホアキン。ちょっと嫌味なんか言いつつ相変わらずやな感じではあるが、自分を抑えられないあの危険さは知らない間に随分薄れていた。マスターの望んだことではないにしろ、これもまたマスターのおかげなのであろうか。そして、エイミー・アダムス嫁に頭の上がらないマスターもまた、ちょっぴりホアキンとの関係に救われていたのではないかな。お互いにそれで幸せになったわけでも、求めたものを手にいれたわけではないにせよ……。


 まあそんなこんなで振り返ってると、映像の美しさも含め、なかなかいい映画に思えてくる。ホアキンとマスターも作中で一時期別れているのだが、きっとその間はそんな風に感じていたに違いない。が、やっぱり観てる間は嫌な奴らの気持ち悪い絡みにしか見えず果てしなく眠かったこともまた事実であった。
 つらつら考えるに、この映画に登場する宗教そのものが僕が食わず嫌いしてきたPTA映画そのものであるのかな。「あなたの映画、別に面白くないでしょ?」「みんな催眠術にかかってるみたいなもんでしょ?」とネチネチ絡む客や、「あのカットはああいう意味なんですよね!」と考えもしてなかった解釈をねじ込んでくるファンに対する葛藤をPTAも抱えているのだろう。
 そういうわけで、ラストシーンと同じく、僕もザ・マスター=PTAに別れを告げたいと思うのでありました。たった三時間足らず、短い間でしたが不肖の弟子ですいません! またどこかでばったり再会できたらいいですね。ファン=信者の多い監督ですが、きっとPTAも、僕のような相性悪い観客に届くものを作るために、これからもマスターとして頑張り続けるのだと思うよ。

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