"最強じゃなかった二人"『愛、アムール』


 ミヒャエル・ハネケ監督作。


 パリで暮らす音楽家の老夫婦、ジョルジュとアンヌ。ある日、アンヌが発作を起こし、手術にも失敗した事で右半身を麻痺させてしまう。医者も補助も嫌うアンヌの願いを受け入れ、一人で介護に勤しむジョルジュ。だが、病状は静かに悪化し、二人は次第に追いつめられて行く……。


 ハネケは『ピアニスト』しか見てないのだが、今作も予告だけ見て「この予告はフェイクで、きっと変態の話に違いない!」と思い込んでおりましたよ。イザペル・ユペールの立ち聞きの示唆とかさ。あのちょっといっちゃった性愛物語のような、一筋縄では行かないものを想像するじゃないですか。全然違ったけど……。


 病院嫌いでプライドの高い妻と、割合似たもの同士の夫、ということで、もう始まった瞬間に、これは孤立を深めて行く典型だな、というのがわかるわけですよ。始まってすぐはまだ多少動けるし、高性能の車椅子買ったらちょっと気分良くなったりするが、時間が経過するに連れてどんどん動けなくなっていく。このあたり、時間経過は曖昧で、作中で何ヶ月、何年経ったかは不明瞭。対してショートスパンでのワンカットは長く、もはや動作もままならない老人の現実を嫌という程見せつける。カメラはほぼ部屋から一歩も出ず、閉塞感と孤独感をひたすら煽り続ける……。


 近年、新聞やネットで読むような「老老介護あるある」から、最初から最後までストーリーは一歩も出ないのだが、細部の描写や撮影と音響が素晴らしい。むやみに動かさないカメラワークできちっと表情を切り取り、静謐な中での哀しみを印象付ける。廊下のホラーシーンや、鳩のシーンなど、息を飲むようなショットもあり。ここまで見せるか、という映画のお手本のような演出ではないですか。だからこそ、ひねりのないストーリーもぐいぐいと胸に迫って来るし、役者の演技も光る。


 しかし、やはりあんまりプライド高くて孤独を好むのも、いざという時に考えものだよなあ。明るく介護され、楽しくおむつを着用でき、寝てても楽しめるような、そんなハッピーな性格になれたらいいのであるが。旦那の方もメンタル強くてギリギリまで我慢してしまったのが、あの結果につながったような気がするね。


 そして娘ちゃんことイザベル・ユペールの役に立たなさもすげえ!(旦那は言わずもがな) たまに来ては「何か他の方法が〜!」と言っては泣くだけ、というお父さんを追いつめるばかりの役回り。本邦とは家族観も違うのだろうが、そもそも海外を飛び回る職業柄からも、同居する選択肢はないんだね。設定が固められているがゆえのお話で、「もしここがこうなら」「自分なら」と言った想像の余地が入る隙間はほとんどない。一組の夫婦の終わりを切り取った、「愛」についての映画でした。。

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