"アベックツルハシ不発!"『Another』


 綾辻行人原作を映画化。


 父の海外出張のために、祖母の暮らす夜見山市でしばらく暮らすことになった榊原恒一。叔母の玲子が教師を勤める中学に転校することになったが、持病の胸の発作で入院を余儀なくされる。そこで彼は、人形を抱いた眼帯の美少女と出会う……。5月になり、退院し登校した恒一は、そこで少女と再会する。だが、なぜかクラスの担任や副担任の玲子、さらにはクラスメイト全員が、彼女の存在に気づいてもいないかのように振る舞っていることに気づく……。


 原作(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100825/1282735118)はルール説明のところと話の引っ張り方加減がダラダライライラして、まあなんとか最後まで読み通したような体たらくだったのだけれど、映画版はそこらへんうまく刈り込んであれば面白いんじゃないかと期待していた。
 果たして、事が核心に迫りかける度に「ううっ、胸が苦しい……」となっていちいち入院してしまう主人公という設定こそそのままであったものの、ルールも描写も簡略化され、説明に費やされるトータルの時間はごっそりカットされている。もちろん序盤、ある種のまだるっこしさ、もどかしさはあるんだけど、あの高校生たちのモゴモゴとしたしゃべり方、ルールに関して説明したいんだけれども自分でもどう説明していいのか見当さえついていないような当惑ぶり、それでいて空気は読んで欲しがるわがままさ、それらすべてが端から見れば全部「おまえらのせいだろ!」としか思えないことがまったくわかっていないという、学校ならではの多数を背景にした空気感のリアルさに還元されてあり、ちょっとドキッとしたものだ。


 しかしまあそこらへんは良かったのだけれど、絵の全体的なショボさはいかんともしがたかったなあ。これ、プリントでヌーヴォか七藝(ローカルネタですいませんね)のスクリーンでかけてたら、もっと雰囲気あったと思うんだが、天下のTOHOのセレクトスクリーンで最新のDLPで映写しちゃうと、いかにも安っぽい。特にあの人形の部屋の、ほんとにただ並べてるだけのところには仰天してしまった。あと、町全体のスケール感を何も感じなかったのもマイナス。舞台は学校だけど、「死」は家族含めて町中で起きるんだから、それがちょっともったいない。謎の多い序盤が嫌な感じなのに、いざ「死」が起こり始めると、うーん、安い……。
 が、まあそれもヒロインへの主人公からの見方の変化と同じく、「幽霊? いないもの?」と正体不明の不気味な存在から、意外とサバサバした気のいい女へと変わって、な〜んだ普通じゃんとなってしまう拍子抜けと共にホッとする感じとシンクロしていなくもない。
 監督の前作『アベックパンチ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110728/1311863590)もそういう低予算とショボさが不思議な効果を生んでいたところがあり、これはもしかして何か持っていると言うか、一つの才能なのかもしれないな(あんまり褒めてないけど、なんか可能性はあるんじゃないかと思う)。


 制服で幽霊よろしく登場したのがゴスッ子になり、最後はショーパンで締める流れは悪くなかったよね。クライマックスの大殺戮もまずまず楽しめた。しかしなあ、青春しちゃってるシーンがもろに『アベックパンチ』だっただけに、最後はアベックツルハシで決まりだよね、と思ったら、なにラスト改変してるんだよ! ぬるいっ! 

Another 限定版 第1巻 [Blu-ray]

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