"ようこそハイエナの巣へ"『アニマル・キングダム』


 オーストラリア映画!


 メルボルンで母と暮らしていた17歳のジョシュアは、薬物の過剰摂取で母が死んだのをきっかけに、母と仲違いしていた祖母に引き取られることに。母、そして三人の叔父と暮らす新たな生活。だが、叔父たちは皆、強盗や麻薬に手を染める犯罪者だった。仲間が警察に射殺されたことを切っ掛けに、彼らはジョシュアも巻き込んで警察への報復を開始する……。


 母親が横で死んでるのに、クイズ番組見てるしかない主人公、というオープニングが秀逸。無力さの端的な表現として、その後の主人公の寄る辺なさを表している。祖母と叔父たちと暮らすことになる主人公だが、実は犯罪者一家である家族に、その片棒をかつがされることに。


 行くところのない主人公は、これから何が起きるのかに薄々気づきながらもそれに加担してしまう。このキャラクターが実に曖昧で、この家にやってくる以前にどんな生活、どんな価値観の中で生きてきたかがよく見えない。明確な意志のないままに、ズルズルとはまっていってしまう。家族は怖いし、警官は頼りにならないし、彼女とは一緒にいたいし……と思っているらしいのだが、いちいち受け身すぎるために行動もいちいち遅いし、立場がどんどん悪くなって行く。
 頼れるはずの警察も内部から腐敗していて、ガイ・ピアース演ずる刑事こそ品行方正なものの、彼一人が奮闘しても主人公一人保護しきれない。割合、素朴な正義感の持ち主なのだが、この状況でそういったものを持ち続ける事の空虚さ、厳しさを強く感じた。


 叔父兄弟の一番上が最も危険な人物、ということだが、見た目はそれほど粗暴げで強そうでももないものの、情緒的で粘着質な、実に絡まれたくない人間に描かれていて面白い。ノワール的な、外にも内にも救いのない世界観の中で、ドライな演出が施され、人が死ぬシーンも唐突であっさりとしたものだ。渦中にいる主人公としては、先の予測がつかない。危機が迫っているのだけはわかっているが、どう振る舞えばいいのかわからない。ストーリーの筋の通らなさが逆に緊迫感や危機感を煽り、後の展開を読めなくさせる。そんな中、ちょっとずつ逃げ足が速くなって行くところは笑ったね。
 タイトルは野獣の王国だが、野獣といってもハイエナやコヨーテなど粗暴さとずるさを備えた獣のようなイメージ。猛獣ではあるものの、腹いっぱいにさえなっていれば襲ってこないような、そんな気紛れさも感じた。


 しかし、たまに大げさにスローモーションになったり、いささか演出に統一感がない感もあり。わざと抑えてるのではなく、単に下手なのでは……という気がちょっとしてしまったよ。また、主人公にあまりにも個性がないため、後半に情動を秘めて動き出すところも何か無味乾燥としたまま終わってしまった。まずまず雰囲気は出ているのだが、『キラー・インサイド・ミー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110502/1304263135)の圧倒的な完成度には及ばない感じ。
 一家の母親役の演技がすごい!という話だったのだが、顔もキャラも『アジョシ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111009/1317816944)の子供さらいの婆さんとかぶり過ぎてて(警察踏み込んで来てるのに知らんふりしてるとこも一緒だ!)、印象的には負けてたな〜。


 悪くはないんだけど、何かもう一味足りない感じの映画であった。主人公が地味すぎるせいもあるか……。監督が『メタルヘッド』の脚本家だそうで、なるほど、ソファーに座るシーンが多かったのはそれでか……。

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