"今日もレイクビクトリアは晴天です"『ピラニア3D』


 大期待のイベントムービー、ついに公開!


 今日はビクトリア湖の夏最大のイベントが行われる日。だが、ビキニ姿の女が詰めかける夏の祭典の警備のため、母親の保安官が出かけてしまったことで、息子のジェイクは二人の弟妹のお守りをしなければならない。弟たちを小遣いで買収し、ガールフレンドのケリーと共に、カリスマポルノ監督のデリックの船に乗り込んだジェイクは、今年こそ夏を楽しむはずだった。しかしその頃、湖の底で起きた地殻変動によって、湖底のさらに下の地底湖に眠っていた、古代のピラニアが甦っていた……!


 発端から中盤の引っ張り、ラストの大殺戮から最後のどんでん返しまで、きっちりフォーマット通りに作ってある印象。ハッタリ感あふれ、むしろひねりはなしと言ってもいいぐらい。実に正統派だな〜。
 その中でも人体破壊はかなり頑張ってたね〜。豪快に血も出てますが、それ以上に傷口の作り方がいかにも痛そうなのが良い。絶対にしたくない死に方だな、と思わせる。大げさなのだが戯画的にならないバランス。大勢が水中で襲われて、全員が食い尽されるわけじゃなく、無傷で逃げ延びられる者、傷一つですむ者、手足を持っていかれる者、色々なのだが、その明暗の分かれぶりが逆に食われてしまう人間の悲痛さを煽り立てる。
 咬み傷こしらえられただけで生きてる人も本当に痛そうな芝居をしてて、エキストラの恐怖の表情や逃げ惑いっぷりも含めて、かなり統制の取れた現場であったのではなかろうか。メインのコンテスト会場、ロングショットからスケール感もうかがえて、最初に映った時から「ああ……ここが阿鼻叫喚の地獄絵図になるのか……」と想像しただけでワクワクするのである。


 さて、設定を聞いた当初は、


「ウエットTシャツコンテスト? 湖にビキニが集まって大騒ぎ? バカ丸出しw 何考えてんだ、こいつらwww さすがアメ公だなw」


 ……と思ってたんだけどさあ……実際にその模様がスクリーンに映し出されてみるとですねえ……なんか、超楽しそう! ポルノ監督のかけ声に合わせて、


「パイ!」「オツ!」「パイ!」「オツ!」


 と盛り上がる様を観ていると……なんだろう……混じりたくなってきた……。陽光に照らされた湖でビールあおりながら大はしゃぎな奴らの楽しそうなこと。それに引き換え、スクリーンのこちら側、同じ夏だというのに、薄暗い映画館なんかに集まったジャップのボンクラどものしょぼくれた姿ときたら……。今こそ、我々も行くべきじゃないか!? あの湖へ! そして騒ごう! はしゃごう! 食われよう!
 怪魚発生後、警官がイベントを中止させようとするのだが、誰も言う事を聞かない。そりゃそうだ、年に一度のお楽しみに、何を野暮なことを言ってるんだこの公権力どもめが! 太陽は熱いし、水は澄んでるし、ビールはまだまだあるぜ! 飛び込め〜!


 ……とまあ、すっかり宗旨替えしてバカになってしまったが、そうさせる魅力のある作品ですな。普段は「3D映画? 小手先の技術で余計な金取り腐って、けったくそ悪い!」と思うわけだが、もし今作が「アレクサンドル・アジャ監督『ピラニア』」だったら別に話題になってないよね。ああ『ミラーズ』の監督の新作ね、ふーん……てなもんで。『3D』を冠したことで祭典性が高まり、そのイベントムービーとしての性質と、作中のTシャツイベントの盛り上がりがシンクロし、言いようのない祭感覚を生み出す。これは乗っからないともったいないぜ!
 『スタンド・バイ・ミー』のデブ少年から幾星霜、ジェリー・オコンネルがすっかり汚れた大人になった姿に胸が熱くなったね。今回はカリスマポルノ監督を大熱演。圧倒的なまでの作られた大物(=小物)感をむき出しにし、あくまで下品に、低俗に、矮小に、アートというスパイスをまぶした欲望でもって君臨する。また保安官の名前を持ち出されただけでびびってしまう小ささも最高! ラストも決まりすぎるぐらい決まった。欲望恐るべし! Tシャツ万歳!
 往年の名優リチャード・ドレイファス(『ジョーズ』!)が出演してたり、主役がティーンのボンクラ野郎であったり、母親の保安官や幼い兄妹が登場して若干ファミリー映画のような体裁を保っているところも、「俺はほんとはあらゆる年代に観て欲しいんだよ、アハハン」というアジャ監督の高い理想がうかがえる(?)。


 お盆も明け、去り行く夏休みを惜しむこの季節、夏の締めくくりのイベントムービーとして相応しい映画でありました。ぜひカップルで観たいですね、フフフフフ。