"若き男爵の肖像"『レッド・バロン』
80機を撃墜した、伝説のドイツ軍エース・パイロットを描く実話の映画化。
第一次大戦下、ドイツ帝国空軍の若き操縦士リヒトホーフェンは、その類い稀なる才能と、負ける戦いをしない哲学によって撃墜数を伸ばし、新たなエースパイロットとなる。昇進し、自らの機体を真紅に染め上げた彼は、「レッド・バロン」と呼ばれ、敵から怖れられた。だが、戦局はドイツ軍に徐々に不利となり、リヒトホーフェンの部隊もまた仲間を失い、劣勢に立たされるようになる……。
http://ja.wikipedia.org/wiki/マンフレート・フォン・リヒトホーフェン
wikiを観ると「本当ははにかみ屋」とか書いてあって萌え死ぬのだが、映画でもほぼその通りの性格に表現されていた。主演のマティアス・シュヴァイクホーファー、なんじゃこの透明感あふるるガラスのような繊細さは!
キャバクラ(違)でみんな遊んでても、なんか一人だけ落ちつかなげ。外へ出て本物のナースを口説くのだがスルーされてがっかり。でもこのナースは実はツンデレで……(爆)。
彼は幼い頃から飛ぶことに憧れ、空戦をスポーツのように捉えている。スコアとして撃墜を重ね、無邪気に記念品を飾る。機を落とすことにこだわるが、被弾し不時着する相手は決して狙わない。戦いに対する礼節を説き、自らも死ぬかもしれない戦いはしない。
常識はずれの戦績で、早々とエースパイロットになったため、すぐに昇進し、かつての上司も部下になる。そこでも彼は、部下に自らの信条を説き続ける。過剰な敬礼は好まないし、戦いに対する哲学も変えることはない。
この主人公のキャラクターを描くことにほぼ全てが費やされてるんだが、色んな意味で「若さ」が溢れてるんだよね。女は苦手でうまく口説けないし、男友達や兄弟と遊んでたい純朴さがあり、やや夢想的とさえ思える美学を持っている。機体に色を塗っちゃうところも、自信家ゆえの無邪気さだ。だが、並外れた才能ゆえにドイツ帝国軍は彼の名声を利用し、エースとして戦意高揚のための広告塔にする。
戦争において、彼の掲げる礼節を持って戦うと言う精神は、ある一面で甘っちょろい理想論だ。人的資源をも削った方が戦況は有利になるだろう。一方で、彼がそうしてフェアネスを貫いたところで、たくさんの死傷者が生まれ、彼自身も命の危機にさらされるという現実も提示される。
では彼のしていることは無意味なのか? いや、そうではない。彼と戦った敵は彼を認めて敬意を払い、部下達もそうした姿勢にやがて感化されていく。第一次大戦、ドイツ軍は敗色濃厚だ。皇帝に呼ばれた若き英雄は、戦局について問われ答える。「降伏しましょう」。自分がなぜ80機を落とせたか。勝てない戦いをしなかったからだ。この戦争にはもう勝てない。そんな戦いは無意味だしする必要がない。夢想的な理想論者が、何ら立ち位置を変えないままにもっとも現実的な発言をする瞬間だ。
色んな見方ができるのだよな〜。ある面から見ればダメなんだが、別の面から見ればプラスに作用する。刻一刻と変わる複雑極まりない「戦争」という状況下で、自分の志を守ることの意味と難しさ。
大空中戦シーンがバリバリと出て来るのかと思ったが、意外にも少なかった。オープニング、敵パイロットの葬式に花を投下するシーンが、ほぼ唯一と言っていいぐらいヒロイックに描かれているが、後の空中戦は抑えめ。出撃して、画面変わったら帰還してたりする。当然、カタルシスは薄いのだが、それも敢えてヒロイックに描かない、狙った演出だろう。
何人もいた仲間が、一人、また一人と戦死して行くのだが、悲劇的なシーンに仕立てられるはずのそれも、戦死の報告や墜落後の発見などで淡々と描写される。手の届かないところで、あまりにあっけなく訪れる大切な人の死。抑えた描写ゆえのリアルさで、その重みが引き立つ。
見る前は飛行機アクション映画かな〜、と思っていたんだが、実にストイックで、戦争映画としての風格が漂っている。そして、派手なアクションこそないものの、キャラクターのカッコ良さはちゃんと描かれているよ。まさに元祖シャア。終盤、三枚の複葉機に乗り換えるのは、ザクからゲルググへの乗り換えだね。
最後の出撃を前にしての儚げな横顔、ラストシーンも美しい。しみじみと良い映画であった。
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