"世界の危機かと思ったらマッチポンプだった"『デイブレイカー』


 今年も多いぜ、ヴァンパイア映画!


 変異コウモリによって媒介されたウイルスで、人類の95%がヴァンパイアとなった世界……。血液が残りわずかとなったことにより、彼らもまた絶滅の危機に瀕していた。大企業に属する研究者であるエドは、代用血液の研究に明け暮れていたが、残り時間はわずかとなるばかり。だが、ふとした事から、追われる人間を助けたことで、彼はある男と出会う。人類の存亡の鍵を握る男と……。


 いや〜、不景気ですね……近頃……。どうなっちゃうんでしょうねえ、日本は……。
 さて、このヴァンパイアに支配された世界なんですが、やったぜ、もう不死身だし何の心配もいらねえぜ!という話かと思ったら違ってて、人間が減り過ぎて吸う血がなくなってしまっているらしい。しかも、残り少ない人間と血液は、サム・ニール社長(ダミアン思い出した)率いる大手企業が、軍隊と癒着して独占し、薄めつつ売り捌いているという……。血を吸わないと生きていけないヴァンパイア達は、結局その論理に従って不承不承働いている、と。
 簡単に言っちゃうと、富を集めて貧乏人を食い物にしている現実世界の大企業と、何ら変わりませんわね。血液が金のメタファーであり、それを失って暴徒「サブサイダー」と化した貧乏人は生きる権利さえ失って処分されるしかなくなる、という現実世界の行く末を暗示しています。
 ウイルスで人間じゃないものに変わってしまう、ということは、大した意味合いがないわけですね。結局は社会のしくみに絡めとられ、持てる者の持たざる者からの収奪が永遠に続くわけです。生存に必要な唯一のものが握られているから、余計にたちが悪い。


 いやしかし、この設定はいい! 「人間」VS「吸血鬼」という構図のマジョリティとマイノリティの立場を引っくり返しただけに留まらず、そこにさらに現代社会の問題を代入することで、より斬新な設定にまで引き上げているわけです。
 志が高いね。人種問題のみならず、貧富の格差にまでフィクションを通して切り込もうというのか……!


 ……と思ったら……。


 ノーリスクで人間に戻る方法が見つかっちゃいました〜! ププ〜ン!


 えええええええええ、それはないだろ〜!?
 現実世界に当てはめるなら……お金無しで生きていく方法が見つかりました〜! そして、みんなその状態になることができま〜す! ……えーっと、それはつまりヴァンパイアになっちゃおう、ということじゃないですか……?


 人間としての生存に必要な食料を得る「富」という概念が、吸血鬼の登場によって「血液」中心のスタイルにとって変わりました、というのが冒頭の状態。それが再び変化し、血液がいらなくなりまた富が必要になる、と……。


 何も変わってないよ! ユートピアを描くにせよディストピアを描くにせよ、その眼目は現代社会と異なる価値観を呈示することにより、今の社会そのものを浮き彫りにし、その問題点をも浮かび上がらせることだろう。冒頭、その条件は整っていたのだが……。


 現実世界の我々は、富の論理に縛られて、身動き出来ずに将来への不安に怯えている。出来る事ならばヴァンパイアになってしまいたい。だが、そんな方法はなく、こうして怯えながらここで生きていくしかない。
 「それでも僕たちはここで生きていく」にしろ、「いや、希望はある。こうすれば変えられる」にしろ、それは一つのテーマになる。だが、「世界は簡単に変わっちゃいますよ!」とありもしない希望を呈示しては、それは単なる夢物語だ。まして主人公たちの努力や戦いの結果ではなく、偶然に、あっさりと見つかってしまうときては……。


 こうなると、冒頭に呈示されたヴァンパイア社会が精巧にリアリティを帯びて作られていればいるほど、ただのマッチポンプにしかならない。


 いや〜、どっちらけ……。太陽の光を浴びて、決然と立ち上がるイーサン・ホークの佇まいは素晴らしい。ファイヤーバードトランザムに託した、ウィレム・デフォーの再生に賭ける想いも熱い。だが、その勇気も偶然と言うご都合主義に支えられた、予定されたものだと思うと、途端に偽物にしか見えなくなるのだ。


 アクションとか流血シーンとかゲロとか怪物の造形とか、そういう部分はなかなか良かったと思いますよ、うん。でも中身が安直すぎたねえ……。

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