”ビフォー・ラブリーボーン”『さまよう魂たち』
さまよう魂たち 【ベスト・ライブラリー 1500円:コメディ映画特集】 [DVD]
- 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
- 発売日: 2010/10/06
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交通事故で妻を失って以来、幽霊が見えるようになったバニスター。その力を悪用し、三人の幽霊を従えてインチキの悪霊払いで生計を立てている。依頼先の女医ルーシーの夫の額に謎の数字を見たバニスターは、彼がここ最近頻発する謎の心臓発作によって死んだことを知り、調査を開始する。やがて、新たな番号を額に持つ男に、死神が襲いかかる……。
この作品の不発のせいで、ピーター・ジャクソンは『キングコング』リメイクも長きに渡って頓挫し、冷や飯食いの日々を過ごしたらしいのだが、確かに出来は良くない。
とりあえず脚本が雑過ぎる。冒頭シーンは明らかにクライマックスの展開と矛盾しているし、ミスディレクションのためでしかないだろ……。
主人公を演じるのはマイケル・J・フォックス。妻を失った過去があるのだが、その原因はバスケのゴールを新居に作るか否かでもめた……という非常に些末なこと。で、その事故をきっかけに霊感を身につけた彼は、三人の霊を使ってインチキな商売をしている……。うーん、つまり元々非常に小さくてつまらない人間だった人が、霊感を身につけてやっぱり悪い事してる……という解釈でいいんですか……。「妻の死」が単なる記号で、主人公の心理の変化がまったく描かれてないんだよね。
霊は無生物に対しては物理的に影響を及ぼせる、ということで、その力を利用してポルターガイスト現象などを起こすのだが、主人公に従ってる霊たちは何年もそれにいやいや従っているらしい。え、なんで? 霊は死んだ直後と、その一年後に成仏のチャンスがあるらしいのだが、なんでこの三人は文句を言いながら主人公にそんな何年もこき使われているの? そこらへんが一切描かれない。人情なのか、能力ゆえなのか? たぶん、霊たちは人情家……ということにしたいんだろうが、老けた高校生マイケル・J・フォックスの人間性の良さがまったく描かれないため、説得力ゼロ。
女医に信頼される展開も、だからこの女医が軽薄なバカに見えるんだよね。そこらへんを霊を絡めてブラックなジョークにまで昇華したいのかもしれないが、中途半端に愛やら人情を混ぜてるから全然効いてこない。狙ってるとしたら外してるし、そうでなくてもただのダメ脚本だな……。
後半に出てくる捜査官も、単に話を掻き回す役でしかなく、登場にまるで必然性がない。見ててイライラが募るのを通り越して眠くなる。
しかし、クライマックスの臨場感の出し方は抜群にうまい。複数階の療養所内部での攻防を三次元的に見せ、さらに過去回想を交えて事件の真相が明らかにする。ここで一気にテンションが上がる、見事な構成力だ(真相自体は予想通りの部分と、アンフェアなミスディレクション込みでどうってことないんだけど……)。
ここらへんはピージャクの得意技をきっちり見せつけた格好。しかし素材が悪く、映像もCG時代に中途半端に突入してたおかげで、『ブレインデッド』のような創意工夫も発揮できなかった。色んな意味で実力不足だったし、ハリウッドにスポイルされてしまった作品だったな。
ここから『ロード・オブ・ザ・リング』三部作まで、五年の月日を要するのだが、あるいはこの作品の失敗がなければ、そんな準備期間を取れなかったかもしれない。歴史の裏の1ページ的映画であった。
同じ霊と死後を題材にし、『ラブリーボーン』を完成させたのはご存知の通り。変わらぬダイナミックな演出に、やっぱり貧困なイメージの死後の世界。さすがに人物描写はまともになってたけど、今作との類似を考えながら観るのも一興ですな。
- 出版社/メーカー: 角川映画
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