”楽しい同窓会の先に待つのはさらなる大爆発? それとも余生?”『エクスペンダブルズ』


 待ちに待った超・筋肉バトル映画、ついに公開!


 バーニー・ロス率いる伝説の傭兵部隊「消耗品軍団」に下った新たな依頼は、CIA筋からの、ある島を麻薬組織と共に牛耳る将軍の暗殺。CIAの真の目的は、麻薬取引を仕切るかつての構成員を、米軍の手をわずらわさずに消す事だった。数百の兵士と強力な武装に守られた要塞の攻略を、視察の失敗から一度は断念したロス。だが、視察の案内役を務めてくれた将軍の娘が、自ら島に残ったのを見たロスは、単身、舞い戻ろうとする。その時、消耗品軍団は……!?


 新旧の筋肉・アクション系俳優がズラリと揃った、「史上最強の同窓会」。何かの冗談かと思うようなキャストが発表された時点から、期待度はかなり高かった。豪華キャストと共にマメなプロモーションに臨んだスタさんから、「ヴァン・ダムにも声をかけたが断られた」「ストンコとの格闘シーンでは、本当に首の骨を折られた」などとご機嫌過ぎる発言が次々と飛び出し、その期待は否応無しにMAXを振り切る。


 上記あらすじとか、ほんとにどうでもいいのだが、そのどうでも良さに拍車をかけるのが、このキャストの豪華っぷり。見てて、「おお、ドルフ!」「わっ、ジェット!」「ミッキー・ローク出てきた!」「ブルース・ウィリスだ!」「げーっ、シュワ知事!」と順番に登場する序盤は、そのこと自体に驚きっぱなしなので、実はブルース・ウィリスがあらすじ的には重要なことを台詞で喋っていたはずなのだが、まったく記憶に残らないのである。
 ノゲイラ兄弟も出て来た! ストンコがわざとノゲイラ(兄?)に肩をぶつけるシーンも、後半の絡みを想像してわくわくする。そんな調子でスターが交互に出てくるのを見ながらニヤニヤしているだけで、飛ぶように時間が過ぎて行く。
 後半にかけてボルテージはどんどん上がり、ジェット・リーVSドルフ・ラングレンを経て一気にクライマックスへ。大銃撃戦と大爆発、素手とナイフによる人体破壊が連続し、肉弾相打つ格闘戦と、黒幕との決闘で締める。


 「突っ込みどころ満載」なんだが、それは適度な「突っ込みどころ」であり、このジャンルの映画としては非常にそつのない、むしろ「突っ込みどころのない」映画。宮殿に総出で爆弾を仕掛けるシーンなど、あまりにさっさと終了するために本来なら「突っ込むべきところ」なのだが、むしろ「うん、これぐらいさっさと終わらないと、返ってかったるいからね」と納得してしまう。後の大爆発では「おまえら、こういう無茶なのが見たいんだろ?」という目配せさえ感じてしまう。


 スタさんの人情味が溢れ出る、キャスト全員に見せ場を与えたバランス感覚にも、その辺りは顕著。ドルフのサイコ演技、ジェット先生のチビネタ、深イイ台詞を吐くミッキー・ローク、スタさんとロークに若気の至りで楯突くステイサムと、各々のキャラクターにオモシロ場面を必ず与えている。


 我らがドルフさんは素晴らしかった! オレはてっきり単なる悪役の一人かと思っていたのだが、最初は「消耗品軍団」の一員、しかし敵に回るという、ある意味おいしい役どころ。しかも『ユニバーサル・ソルジャー』以来のサイコ演技で、危うく冒頭の作戦をぶち壊しかけ、無意味な絞殺刑をやらかしそうになりかけたあげく、止めに入ったジェット先生の耳(ほんとは首)を削ぎ落としかける(かける、かけると歯切れが悪いですが、ここは重要なポイントなんで)。そんなドルフを見捨てられないスタさんとの人情味溢れるシーン、チームから外されたドルフの悲しげな表情は必見だ。
 やっぱりこういう役は合うなあ。ストンコに大見得切るとことかもいいし、ジェット先生のカンフーに正拳突きと下段蹴りで対抗し、空手の試割りのごとく材木を粉砕するところも熱いよ。出番は多い部類ではないけど、それでも出番だけは何倍もある自らの主演作よりも遥かに魅力が引き出されているところが、嬉しくもあり寂しくもある。


 アクションシーンでも、ジェット絡みの部分のみコーリー・ユエンを招聘する力の入れよう。棒立ちになった敵にジェットとステイサムが交互に蹴りを入れて行くシーンは、『ザ・ワン』でジェット・リーの大暴れを見て自分も目覚めてしまった、というステイサムが『トランスポーター』を経てアクションスターに昇りつめた経緯を知るファンとしては、涙さえ出てくる名場面だ。
 また、格闘でストンコに「痛めつけられた」スタさんに代わり、ランディ・クートゥアがスーパーマンパンチで挑むところも見せ場。オレオレ俳優なら自らリベンジするのにこだわるところだが、若手(つってもオッサンだけど……)に譲ってしまうこの心意気。しかしここにも「おまえら、UFC王者とWWE王者の対決見たいだろ?」という配慮が感じられる。


 素晴らしく面白い。面白いんだが、最近の『ロッキー・ザ・ファイナル』『ランボー 最後の戦場』のような、シリーズを積み重ねたが故の混沌がない。一部ファンに絶賛される一方で、「まだ作るのかよ」とも必ず叩かれたシリーズ作品の脚本は、スタさん自身かなり悩みながら書いているのではないかと思うのだが、今作はほとんど考えもせずに仕上げられたのではないか? それが単に、豪華キャストありきの企画故に期待されている定型を手堅くぶち込めば、それで充分面白くなるから、という理由でそうなったのだとすると、少々寂しいものも感じる。
 全編気持ちいい程なにもなく、もちろん楽しいんだけど、何か一つ、スタさん監督作品にあってもいいはずのウェットな「味」がないように思えて、ほんのちょっぴり物足りないのだ。
 唯一、「金のためにやるんじゃない、自分の魂を救うために闘うんだ」というテーマがあるのだが、割合さらりと流してしまう。ここはスタさんが、メンバー全員集めて説教かましたら面白かったのになあ。いや、もちろんテンポをぶった切って失笑もののシーンになったと思うんだけど、そういうこだわりが過ぎて珍作化するようなおかしみを、オレはちょっと期待していたんだよ。これは多くを求め過ぎているんだろうか?


 とりあえず今作は大ヒットし、続編にもGOサインが出たと聞く。次はヴァン・ダム、セガールカート・ラッセル、マーク・ダカスコスとか出ないかなあ……とわくわくする。
 しかしスタさんと彼の映画に「商業的成功」ばかりを追い求めないで欲しいと思うのは、オレのつまらないロマンチシズムなのだろうか? あるいはスタローンもとうとう、『ロッキー』『ランボー』で自分の人生とは何かなどという青臭いことを追求してきたのをやめて、再評価された過去の遺産をもって「上がり」へと進む事にしたのかもしれない。ここ数作にほの見えたクリエーターとしての「老成」を考えても、そういう方向へ進む事は理の当然なのかもしれない。それはそれで、きっと喜ばしいことなのだろう。
 そんなスタさんの行く末は、次回作で明らかになることだろう。その時を待ちたい。

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