『息もできない』


 新鋭による監督・主演の韓国映画


 借金取りを生業にするチンピラのサンフンは、ある日、一人の女子高生にうっかり唾を吐きかけてしまう。最悪の出会いだったが、それぞれの家族とのやりきれない関係に多くの共通点を抱えた二人は、そのことを知らぬままに互いの求めるものを見出し合う。出会いをきっかけに動き始めた人生。だが、生き方を変えようとしたサンフンの前に、動かせない過去が立ちはだかる……。


 妥協なき姿勢が伝わる冒頭の暴力シーン以降、バイオレントな表現が続く。主人公の振るう暴力は、それによってしか自分を表現出来ない苛立ちと哀しみを濃密に漂わせながら、もちろん暴力自体の恐怖と迫真性を併せ持つ。時に復讐として振るわれるそれら暴力に感情移入してしまう我々観客は、いつしかサンフンに、他の登場人物に自分を重ね合わせていく。


 新人監督と思えない丁寧かつわかりやすい作りながら、テーマは圧倒的なまでに重い。クライマックスからラストへの流れで表現されたものに、人が人に対して残すものについて考えさせられた。全ては消えることはない。愛や優しさも人の心に伝わり残り続けるが、暴力もまた消えない傷跡を残し、終わりなき連鎖として連なって行く。たとえ立ち止まっても、拳が振るわれたことによって生まれた痛みは残り続ける。ならば、人はどのように生きればいいのだろう? 過ちを犯さない人間などいないというのに。


 ものすごく重い映画なんだが、ヒロインの不細工なんだけど時々見えるかわいいとこ、子供の愛らしさ、父親の弱さ、友達の人の良さ、そして主人公の優しさ……人間の良き一面も対比として描く。そうすることで、単にバイオレントなだけに留まらず、人間の複雑さを表現し切った作品に仕上がった。脱帽ものの手腕だ。


 傑作。