『家守綺譚』梨木香歩

家守綺譚 (新潮文庫)

家守綺譚 (新潮文庫)

 駆け出し文筆業の綿貫は、学生時代に死んだ友人・高堂の実家を借り受け、番がてら住む事になる。折々の草花が茂る庭と、魚が住み鳥が寄る池。そこは綿貫が住まう以前から、彼の常識を超えた者たちも立ち寄る場所であった。そしてある夜、湖で行方不明になったはずの高堂が、庭の掛け軸の湖の絵から現れる……。


 普段読んでるホラー小説だと、主人公が怪異によって大変な目に遭うのだが(笑)、今作では河童や鬼こそ出て来るものの、特に悪い事はしない。それらはすべて土着のもの、自然現象として捉えられており、主人公も最初こそ戸惑うものの、じきに受け入れてしまう。理解ではなく許容、排斥ではなく共生。この世に溢れた人ならざるもの、妖怪に象徴される自然・草木・獣のメタファー、ひいてはそれらそのものとの優しい付き合い方を提示する。


 200ページ弱の短い連作短編なのだが、思いのほか密度が濃い。衒学的にならず、さりげなく情報量を詰めているあたりも巧いし、凡百の作家ならばいかにも「日本の情緒」です!と力み返ってしまいそうな題材に、さりげなく異国の情景と照らし合わせて見せる目配りも素晴らしい。そして、共生という在り方の大前提である独立独歩の気概も、そこはかとなく漂う……。傑作。

村田エフェンディ滞土録 (角川文庫)

村田エフェンディ滞土録 (角川文庫)


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