”遠いクマの向こうへ”『ブリグズビー・ベア』


『ブリグズビー・ベア』 6月23日(土)公開!

 クマ映画!

 ビデオで届く教育番組「ブリグズビー・ベア」を見て25年育ったジェームズ。両親と世界から隔絶された家で暮らしていた彼は、ブリグズビー・ベアの研究家を目指していた。だがある日、両親と思っていた二人は誘拐犯で、自分が監禁されていたことを知る。『ブリグズビー・ベア』を作ったのも誘拐犯たちだったのだ……。

 乳児の時に誘拐され、25歳まで監禁されていた男の話。子供の頃からずーっとこの『ブリグズビー・ベア』というタイトルの幼児番組を見続けていたのだが、実はこれは父親と思い込んでいた誘拐犯が作った偽番組だった……。
誘拐が発覚して、この主人公は警察に保護され、実の両親と妹に引き合わされる。いつも通りクマの番組を観ようとしたら、自分しか知らなくて大ショック。
 主演のカイル・ムーニーは実年齢は30過ぎなので映画内でも腹が出てきてておっさんくさい体型で、そこがまた悲壮感があるのよね。刑事に頼み込んで押収されたクマのVHSを取り返し、デッキを手に入れて再び見耽り、映画という文化があることを知って続きを自分で作ろうと考える……。

 文章で書くと簡単だが、親や妹、刑事が散々に振り回され、自分もカルチャーギャップに翻弄されまくることに。ただまあ、悪い人は一切出てこない上に誰もが協力的で彼を理解しようと努めてくれる。リアリティに欠けるのはそうなのだが、ある意味、理想的な社会の姿を描いているとも言える。
 そうして善人しか出てこないファンタジーとして仕上げる上で、誘拐部分までファンタジックになってるのは、『ルーム』以後の映画としてはちょっと気持ち悪いし、説明を省いているのも細かい設定を作って突っ込まれないように、という感がある。主人公は人情味が薄くてクマにしか興味がないので、細かいところにはこだわらない。これも話を成立させるための設定だな。

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 そのあたりの舞台装置の気持ち悪さはどうにも否めないが、そこさえクリアしてしまえば面白い。出どころはおぞましくとも、創作物は時に人の心を打つし、物作りのスピリットは連綿と受け継がれて行く。クマに囚われているようで、映画作りは次第に過去の清算のような色合いも帯び、完結させることが人生を先に進めることにつながる。
 監禁からの解放ということで、まったくバイオレンスはないのだが『オールド・ボーイ』や『サンタ・サングレ』にも通じる……ということで、実は大好物な映画であってもおかしくないはずだが、ちと惜しいな……。もっと孤独で悲壮で、でもわずかに救いがあるかもしれない、そんな話の方が好きですね。

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 ひさびさにクレア・デーンズが出ていて無理解なカウンセラー役で鉄面皮で怖かったのだが、妻に「『T3』のターミネーター役の人やっけ?」と聞かれたよ。違う、ヒロインだ! まあそれぐらい冷たい感じだったということで……。