“あいつが憎い”『どこか霧の向こう』


《藍天白雲》預告

 大阪アジアン映画祭2018にて。

 香港郊外で起きた夫婦の殺人事件の容疑者は、実の娘コニー。なぜ、彼女は両親を手にかけねばならなかったのか? 悲惨な家庭環境に着目した担当刑事のアンジェラだったが……。

 これは香港で実際にあった事件がモデル。モノクロ映画と錯覚するようなくすんだトーンが印象深く、映画全体に陰鬱なムードが漂う。ただウエットさはまるでなく、ひたすらに愛のない世界で無味乾燥とした関係が続く重苦しさ。

 主人公の少女は、暴力的で女子高生(自分と同級生のことも!)を買春してくる父親と、そこから目をそらして宗教に逃げ込む母と暮らす貧困生活。お話はこの両親の死体が発見され、行方不明だったその娘が、同級生の男子と宿泊先で見つかるところから始まる。
とりあえず任意同行し、担当についたのは妊娠中の刑事。夫と、元医者で今はボケている父親と暮らしている。

 取り調べの過程で、特に協力的でもないが黙秘すると言うわけでもない少女が、むしろ虚無的なまでに供述を積み上げ、彼女の境遇が次第に明らかになる。両親の虐待の手法は無論おぞましいのだが、少女がそれを再生産し、意識してかそうでないのか、同級生のコントロールに流用してくるあたりがまたぞっとさせる。
 で、その境遇に段々と同情してきた女刑事は、自分もふとした時にボケ老人である父に殺意を抱いてしまい共感する……って、これはなかなかに身もふたもない話だな。はっきりとは口に出さないのだが、特に刑事自身は父からの虐待を受けたというわけではなさそうで、単に殺意にのみ共感したみたいな話になっていて、ますます虚無的になる。

chateaudif.hatenadiary.com

 なかなか見ごたえはあるし、暗さと身もふたもなさ、青春もの感覚なら『Kids』枠だが、殺害シーンのリアリズムも含め、どこかしら『八仙飯店之人肉饅頭』を思わせなくもない……ということで、今年は来てないけどこれが今回のハーマン・ヤウ枠だったのかな。それだったら噂の日本軍の人体実験映画やってくれよ!とも思ったのでありました。