”ある愛の終わり”『ノクターナル・アニマルズ』
トム・フォード監督最新作!
20年前に別れた元夫から送られてきた、一冊の未発表小説。『夜の獣たち』と題されたそれはその暴力性と裏腹な美しさでスーザンの心を捉える。今になってそれを送ってきた夫の真意とは?
オープニングの超デブから度肝を抜かれる。その突飛なビジュアルも確かに凄いんだが、美術が物凄く行き届いていてびっくり。エイミー・アダムスの家のオシャレさにも圧倒されるが、ひけらかしてる感じもないのよね。こんな家にこんな格好で本当に住んでるのかよ、生活感は……と思いかねないところだが、実に自然に撮っていて、そんな意識をさせない。たぶん、トム・フォード自身はほんとにブランドで固めて、こんな家にさらっと住んでるんだろうな……。
そんなピカピカのおうちから一転、別れた夫ジェイク・ギレンホールの送りつけてきた小説の舞台は荒涼たるど田舎に。ああ……もっとブランド物を見ていたかったわ……と思わないでもなかったが、ここでも撮影が決まりまくっていて、妻子を奪われぽつねんと取り残されたギレンホールの侘しさよ。
この小説を映像化したシーンは、エイミー・アダムスが登場人物の「夫」に自分の夫を投影して見ているのだが、「妻」役は自分ではないのよね。これはもう別れたから、ということなのだが、では夫の方はそれでいいのかというと、これも違うのでは、と思える。
別れた妻としては、「才能がない」と見下していた元夫が送ってきた小説を読んだら思わず引き込まれてしまい、かつて捨てたことへの「復讐」として送ってきているのではないか、と思わず解釈してしまう。俺はこんな凄いものを書けるようになったんだ……!
が、これが本当に面白い小説なのかはちょいと微妙で、筋は単純だし、ケッチャムみたいないやな筆致になってるかはよくわからない。ギレンホール夫は夫で、「あいつは芸術のわからない女」と思ってる節があるし、仮にすごい小説が出来てたとしても、送って理解されるものと思ったのであろうか?
読み進めるにつれて、元夫の意図を想像してメンタルが揺らぐエイミー・アダムス。彼女自身の生活や今の家庭もかなり問題を抱えていることがちょいちょい挿入され、いつしかピカピカのブランドも空虚さに満ちて見えてくるのである。
ローラ・リニーお母さんと、エイミー・アダムスの現在のだぶり感。アミハマ夫の顔ばっかり感よ……。
小説内に登場するチンピラをやってるキック・アスことアーロン・テイラー・ジョンソンが、相変わらずのイケメンながら中身ゼロのモンスター男を熱演。このルックスの良さがブランドものの美しさと被るのだが、その彼が野外でウンコしてケツを拭くシーンがなんとも言えず小汚くて最高である。ウンコ自体を映像で観るより、ウンコを拭いた紙を観る方が汚く感じる心理はいったいなんなのだろうね。
「物語」から、もちろん人は読みたいものを読み取るわけだが、一方で読みたくないものを読み取ってしまい、なおかつそれを認められないという心理があり、それは時に書き手の意図とも大きくずれてすっ飛んで行ってしまうのかもしれない。
わざわざ家まで原稿持ってきて投函したギレンホール夫の心理も計り知れないわけだが、彼に対する罪悪感と自己正当化がごちゃまぜになって、エイミー・アダムスは彼との再会を選択する。
この二人の関係、取ってつけたような堕胎がなければ、ごくごく平凡な別れだったんでは、という気がする。その当時は腹を立てたかもしれないが、振り返ってみたらそこまで執着し合うのか?という……。
何がしか深い意図や計画性を期待するところだが、オチはそういうつき方はしない。ブランドと砂漠、執着心と猜疑心、揺れる形なき愛憎……そういった過程こそが肝なのではないかな。
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