”誰がために剣を”『修羅の剣士』


「修羅の剣士」予告編

 中華映画祭り!

 神剣館最強の剣士、通称「第三の師」。都で賞金稼ぎとして名を挙げた剣客・燕十三は秘技を提げて神剣館に乗り込むが、挑戦しようとした「第三の師」はすでに死んだと告げられる。時を同じくして吉という男が街の妓楼に現れ、下働きとなるのだが……。

 さて、毎回CGチャンバラものはあるので、今作もその一本かということであまり期待してなかった映画。イー・トンシン監督。
 キャストに『ドラゴン・フォー』の悪女・深津絵里ことジャン・イーイェンさんが出ているのでそれが楽しみでありました。あらすじを読むと娼婦役ということで、全然イメージが違うな……と思ったら、それは女優名が間違えて入れ替わってて娼婦役は別の人。ジャン・イーイェンは金持ちのお嬢様で嫉妬に狂う悪女役……またかよ! イメージ通り過ぎるだろ!

chateaudif.hatenadiary.com
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 タイトルは『修羅の剣士』なので、それは当然、この顔中にジョーカーみたいな入れ墨して誰かわからんキャラクターであろう……。演じるはピーター・ホーさん。劇場版『仮面ライダー555』でライダーやってた人。他は『ソフィーの復讐』で見たかな。呑んだくれてて無頼っぽいが、顔と衣装ほどには邪悪な雰囲気はなし。悪人というよりせいぜい「ワル」かな、というぐらい。剣術を極め、「第三の師」と呼ばれる若き天才剣士に挑戦しようとする。この「第三の師」というのは何が第三なのか、第一と第二はどうしたのかよくわからん。三男坊だからそう呼ばれていたのであろうか……?
 が、若くして死んだ兄二人に続き、「第三の師」もまた鬼籍に入っていたのであった。チョイ・シウキョンさん演じる父親に墓標を見せられ、絶望するピーター・ホー。若い頃の無理がたたって身体を壊していることも発覚し、生きる目的を見失う……。

 その頃、町の娼館で有り金全部つぎ込んで泥酔する男が一人。ケニー・リン演ずる一見頼りなさげな男だが、行動の端々に只者ではない感が漂う。
 もちろんこの男が実は生きていた「第三の師」であり、「修羅の剣士」と奇しくも相見えるまでがこれから描かれるのである。
 「第三の師」がいかに剣士としての人生に絶望したかを描くと共に、「修羅の剣士」が自分のために戦うのではない新たな人生を見出すまでを描き、やがてはそれが交わることになる。どっちかというと入れ墨で顔がわからないピーター・ホーさんの方に主役感があるな。

 時代はいわゆる「乱世」ではなく、「剣」は自分の所属する一門の名声や権力とも密接に結びつき、パワーゲームの道具と化している。その中で剣を振るうということは、畢竟、権力争いに加担することであり、弱者をそれによって傷つけるということでもある。「第三の師」はそれを嫌い、生きる目的を見失っていたが、彼を狙っていたはずのアウトロー「修羅の剣士」が、先に道を見出し、彼の道しるべとなる……。

 ケニー・リンさんがいまいち華がなく、モジモジウジウジしている前半は結構もどかしいのだが、話の展開が見えて来ると思いの外、シンプルで面白い。
 そして「第三の師」と幼馴染であり、彼を愛しつつも、お金持ちのお嬢様だから金も権力も手放したくないジャン・イーイェン! 身一つで駆け落ちしたはずが召使が大勢で追いかけてきて、あっという間にテント村を設営してしまうのに「第三の師」ドン引き! 「君にも大地の息吹を感じて欲しい」とか言って田んぼの泥に入るケニー・リンさんに続き、そーっと絹履を泥に突っ込むが「ひえっ!」とか言っちゃうあたりも最高だな。

 正統派なワイヤーチャンバラもたっぷり楽しめ、お話も手堅くまとまってて、「修羅の剣士」の外連味もあって、実にいい映画。ちょっと『妖刀・斬首剣』フォロワーでもあるかな。今回の三本の中では、これが一番良かったね。

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