”砂漠に殺されろ”『ノー・エスケープ』


『ノー・エスケープ 自由への国境』予告編

 キュアロン監督作?

 メキシコからアメリカへと不法入国しようとする移民たち。闇ガイドの案内で徒歩で国境を超えた彼らを待ち受けていたのは、謎の銃撃だった。摂氏五十度の灼熱の中、モイセスら生き残りは必死の脱出を図るのだが……。

 監督はホナス・キュアロン……かのアロフォンソ・キュアロンの息子さんだそうですね。今作はメキシコとアメリカの国境線と周辺の砂漠を舞台にした、「広いけど閉鎖状況」もので、『ゼロ・グラビティ』にも通じますね。

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 製作兼主演にちっちゃいイケメンことガエル・ガルシア・ベルナル。職業、自動車整備工。アメリカ入国は二回目。徒歩で砂漠越えして入国。国境線と言っても長いので、手薄なところはしょうもない鉄条網が一本走ってるだけで、あっさりと国境越えしてしまう。まあバカ広くて、ここに壁をおっ立てようというのがどれだけバカな事かは明白なわけだ。

 さて、国境を越えても、人間のいるところまではまだまだ延々移動せねばならんので、水を節約しつつ歩き続ける不法入国者軍団……が、この彼らを謎の狙撃が襲う! 近所で許可のいらない兎狩りをしていたハンターが、何を思ったかぶっ放しまくる。
 どのシーンも撮影がなかなか良くて、砂漠の広さと見通しの良さ、狙撃に要している距離感などをスムーズに表現してくれる。デブの人が歩くの遅くて後から来てたガエルたちの一団は難を逃れ、狙撃者の存在を知る。なんとかやり過ごそうとするが、ここで狙撃者の飼ってる猟犬が猛ダッシュ!
 この犬の身体能力、殺傷能力、俊敏性が如何なく発揮され、丸腰の人間は追いまくられるのみ! 唯一、登坂能力だけは人間が上なので、手を使って高いところによじ登って逃げるしかない。だが、さらにそこに狙撃が……。
 追われる立場からすると犬が超怖いんだが、逆にパートナーである狙撃者からしたらほんとに頼りになる相棒なのね。健気で忠実で、殺人も辞さない。この犬との二面作戦で、不法移民たちはどんどん数を減らされていく。
 岩から岩に飛び移って逃げるシーンで、デブが飛ぶところは最高だったなあ。なんでデブがアクションするとこんなに面白いんだろうね。

 原題は「Desert」で、オープニングとエンディングの両方でご丁寧にタイトルが出るのだが、まさに砂漠自体が主役といった趣で、サボテンや毒蛇など砂漠ならではのギミックも続々登場。単に横断するだけでも、このロケーションを通過するだけでイベント目白押し。

 この狙撃者を狂人と呼ぶのは簡単だが、かの国の南部の銃社会において、移民排斥を口にする大統領が誕生した現在、かくなる人間が登場するのは必然ではないか、という気がする。もう少し言うなら、より排外感情が高まれば、ごくごく普通に生きている人間がああして銃を取り、銃撃に走ることもあり得るのではないか。「合法化」されれば、このような行為はあっという間に日常になるんではないかな。狙撃者が犬を愛する感情を持った人間であることは、意図的な描写だろう。
 現実と違うとすれば、「不法移民を撃ち殺してやるぜ!」と威勢のいい奴は、だいたいあそこまで手際よくやれんだろう、ということかな……。

 小品ながらピリッとチリソースの効いたホットドッグという感じで、悪くない後味。なかなか面白かった。

バベル (字幕版)

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